駅 STATION(1981年・東宝)
監督:降旗康男
脚本:倉本聰
撮影:木村大作
音楽:宇崎竜童
出演:高倉健、倍賞千恵子、いしだあゆみ、烏丸せつこ、古手川祐子、根津甚八、宇崎竜童、北林谷栄、名古屋章、大滝秀治、池部良、潮哲也、寺田農、藤木悠、永島敏行、田中邦衛、小松政夫、小林稔侍、橋本功、室田日出男、佐藤慶、武田鉄矢、竜雷太
監督降旗康男-主演高倉健コンビの13作目にして、おそらく日本映画の最高到達点の1本(あくまで私見です)。キャストが良い、演出が良い、シナリオが良い、映像が良い、音楽が良いと5拍子揃っている。
脚本について言えば、セリフが極端に少ないにも関わらず、しかも説明不足の箇所がまったくないという稀有な例である。こういった演出面と密接に絡んだような映画シナリオを脚本家が書けるというのも、当時の倉本聰の脚本界における地位の高さがなさせる技だろうが、それを受け入れた監督もすごいと言える(監督が脚本も手がけている場合はこういうタイプの脚本もままある)。もちろんシナリオの完成度の高さは言うまでもない。当時、倉本聰は
『北の国から』にかかっていた頃でいわば絶頂期である。舞台も北海道。倉本聰のシナリオの中でも最高傑作の部類に入る。
映像も全編美しい北海道の情景があふれて、映像だけでも気持ち良い作品である。特に冬の北海道の詩情といったらない。
キャストは非常に豪華で、主役級の俳優が多いだけでなく、いわゆるバイプレーヤーの俳優も実力派揃い。しかも高倉健、倍賞千恵子のコンビは前年の『遙かなる山の呼び声』、『幸福の黄色いハンカチ』で共演、田中邦衛は
『冬の華』で共演、池部良はヤクザ映画で高倉健と何度も共演しているというように、高倉健との共演実績のある人が多い。田中邦衛や大滝秀治、いしだあゆみ、小松政夫は『北の国から』の方にも出ている。降旗映画らしくキャスティングはバラエティに富んでいて面白い。
ストーリーは直子(いしだあゆみ)、すず子(烏丸せつこ)、桐子(倍賞千恵子)という3人の女性を軸に進んでいく(この3人の名前がそれぞれサブタイトルとして付けられている)。それぞれが主人公の三上の人生に絡んでいくんだが、同時にこの三上、メキシコオリンピックの代表になるレベルの射撃選手でありしかも刑事。そしてその経歴が自分の人生に迷いを生みだすことになる。主人公の心情は実に複雑に絡み合ってそれが見ている側にストレートに伝わってくるんだが、それがセリフで表現されるわけでもなく(先ほども言ったようにセリフは極端に少ない)、淡々と情景の中で生みだされていく。
音楽担当は宇崎竜童で、重要な役で出演も果たしている。キャストとしてもすばらしい存在感があるが、なんと言っても音楽がすばらしい。テーマ曲も非常にグレードが高いが、演歌や歌謡曲が情景の中に盛り込まれて、歌謡曲がこれほど効果的に使われた映画は他にないんじゃないかと思う。もっとも歌謡曲の選択に音楽担当の宇崎竜童が関わっているかどうかはわからない。
この映画を初めて見たのは30年近く前で、この映画を見てから降旗康男の映画に注目するようになったのだった。ただその後、高倉健を起用して作った映画、『居酒屋兆治』、『夜叉』、『あ・うん』はどれもパッとしない退屈な映画で、正直ガッカリだった。倉本聰が脚本を書いた降旗–高倉映画には他にも『冬の華』があるが、これも『駅』には及ばない(これは最近見たんだが)。やはりこの『駅 STATION』だけがずば抜けていたということなんだろう。言うことありません。
★★★★☆参考:
竹林軒出張所『冬の華(映画)』竹林軒出張所『聞き書き 倉本聰 ドラマ人生(本)』竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』竹林軒出張所『君よ憤怒の河を渉れ(映画)』竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』竹林軒出張所『鉄道員(ぽっぽや)(映画)』竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』竹林軒出張所『倍賞千恵子の現場(本)』竹林軒出張所『北の国から (1)〜(12)(ドラマ)』竹林軒出張所『北の国から (13)〜(24)(ドラマ)』