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竹林軒出張所

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『鉄道員(ぽっぽや)』(映画)

鉄道員(ぽっぽや)(1999年・「鉄道員」製作委員会)
監督:降旗康男
原作:浅田次郎
脚本:岩間芳樹、降旗康男
撮影:木村大作
出演:高倉健、大竹しのぶ、広末涼子、吉岡秀隆、安藤政信、小林稔侍

『鉄道員(ぽっぽや)』(映画)_b0189364_7573234.jpg 浅田次郎の直木賞受賞作が原作の映画。映画のストーリーは、廃線などをテーマにしながら割合だらだらと進んでいくが、ストーリーの中心は最後の部分である。原作を読んでいないのでよくわからなかったが、いきなり的な終わり方なんかいかにも短編小説のストーリーという感じである(案の定原作は短編小説だそうで)。こういった手先でこねくり回したようなやや安直なストーリーは、短編小説としてならいざ知らず、2時間の劇場映画としてはどうよと思う。ちなみにストーリーは『雪女』をベースにしている……と思う(映画の中でも触れられていたことだし)。
 映画は、回想シーンを重ね、回想部分は少し色を落とすなど工夫があってとてもわかりやすい構成になっているが、どれも作り物っぽくしかも過剰に説明的で少々がっかり。映画の映像ってのは、散文的(説明的)な要素と韻文的(詩的)な要素で構成されるわけで、韻文的な要素ばかりになると内容が伝わりにくくなり、逆に散文的な要素ばかりになると見る側が「底の浅さ」を感じてしまう。その辺の兼ね合いが重要になるが、この映画は、韻文的な要素が少なすぎるような印象があった。この作品の監督、降旗康男と撮影の木村大作は『駅 STATION』という映画でもコンビを組んでいるが、『駅』は詩的な要素が十分盛り込まれていて、大変質の高い映画だった。主人公の妻が、出ていく列車の中から敬礼するシーンも両方の映画で共通しており、多分にこの映画でも『駅』を意識しているようなシーンが見られたが、質は『駅』の方がずっと高い。
 キャストも高倉健とこれまで共演してきた人々、たとえば小林稔侍や板東英二などが出演していて、『駅』も含め、かつての高倉健映画のオマージュみたいになっている。よくできた映画だったらその辺も面白いと思うんだろうが、ちょっと空回りしているような印象を受けたのも事実。
 なお、高倉健と小林稔侍が蒸気機関車を走らせるシーンがいくつか出てくるが、これもちょっともの足りない。本物の迫力は、『ある機関助士』( 竹林軒出張所『ある機関助士(映画)』参照)で見事に表現されていて、やはり本物に比べると、ウーンという感じのシーンだった。こういったディテール部分がしっかりできていないと興が醒めてしまうが、そういう部分は他にもいくつかあったような気がする。
 そもそも、高倉健がこのストーリーの主人公の乙松に合っているのかというのも疑問に感じた。イメージがちょっと違うような気が見ている間中ずっとしていて、どうも制作側が「降旗康男-高倉健」という路線を既定路線にしていたんじゃないかという印象を受ける。ちなみに監督降旗-主演高倉コンビは(今数えたら)この映画でなんと17作目(『地獄の掟に明日はない』、『獄中の顔役』、『新網走番外地 流人岬の血斗』、『日本女侠伝 真赤な度胸花』、『捨て身のならず者』、『新網走番外地 大森林の決斗』、『新網走番外地 吹雪のはぐれ狼』、『ごろつき無宿』、『新網走番外地 嵐呼ぶ知床岬』、『新網走番外地 吹雪の大脱走』、『新網走番外地 嵐呼ぶダンプ仁義』、『冬の華』、『駅 STATION』、『居酒屋兆治』、『夜叉』、『あ・うん』)! その後も今に至るまで2作(『単騎、千里を走る。』、『あなたへ』)ある。全部で19(厳密には18 1/2)作!
★★★

参考:
竹林軒出張所『駅 STATION(映画)』
竹林軒出張所『証言 日中映画人交流(本)』
竹林軒出張所『遙かなる山の呼び声(映画)』
竹林軒出張所『単騎、千里を走る。(映画)』
竹林軒出張所『君よ憤怒の河を渉れ(映画)』
竹林軒出張所『昭和残侠伝 唐獅子牡丹(映画)』
竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』
by chikurinken | 2012-09-12 07:59 | 映画
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