佐久間ダム建設記録第一部、第二部(54、56年・英映画社)
ドキュメンタリー(DVD)
1956年に天竜川中流域に作られた佐久間ダムの建設記録映画。第一部から第三部まであるらしいが現在DVD化されているのは第一部と第二部で、どれも公開時はドキュメンタリーとしては異例のヒットを飛ばしたらしい。ちなみに第一部は準備工事で、第二部は本工事の様子である。第三部についてはよくわからない。僕が見たDVDは、先日紹介した『新しい製鉄所』(
竹林軒出張所『新しい製鉄所(映画)』参照)と同じ「重厚長大・昭和のビッグプロジェクトシリーズ」として発売されているものである。
この映画も、『新しい製鉄所』と同様非常に無骨な作品で、ダムの建設行程を淡々と順に追っていくという構成である。この佐久間ダムは、建設当時、戦後まもなくだったということもあり、技術面で日本国民にとって誇りだったようで、この映画が公開時ヒットしたのもそれが直接的に影響しているようだ。そのため内容は、テクノロジー礼賛、大土木工事成就礼賛に終始し、ダムのネガティブな面については一切描かれない。住民の集団移転についても「彼らにとって新しい生活が始まる」というような描き方だった。
佐久間ダムは、自動車用の道路もない難所に作られたため、実際にダムの建設を始める前に準備工事が必要だった。天竜川左岸と右岸の工事用道路の他、コンクリートを運ぶための運搬用トンネル道路やセメント用のサイロ、それにダム上流の水をダムの下流に流すための仮排水路トンネルを作るところから始まる。工期が3年と短かったこともあり、アメリカから導入した最新のテクノロジー(ドリルジャンボという重機など)を駆使し、1年ちょっとの短工期で準備工事を完了させる。ここまでが第一部。
本工事についてもケーブルクレーンなどを使って効率的に仕事が進められる。コンクリート打設量が当時世界最大だったという大工事であるにもかかわらず、こちらも比較的短期間で工事が進んでいく。また、全体が完成する前に貯水を始めるなどということも行っていて、これなどはまったく未知のことで新鮮であった。映画自体は、ダム建設手順を詳細かつ丁寧に追っていくというもので『はたらくおじさん』みたいな展開である。終始、ダム建設を偉業として捉える論調であり、それはそれで良いんだが、犠牲者の数などにも触れられていない(実際は96名。犠牲者が出たことには触れられている)。そういうわけで、巨大ダムの一面だけを紹介するドキュメンタリーになっており、ダムに対してネガティブなイメージが語られる今の世の中では、多少違和感を感じるような部分もある。ある程度割り切った見方が必要である。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『新しい製鉄所(映画)』竹林軒出張所『黒部の太陽(映画)』竹林軒出張所『ダム建設中止問題の実在に関する考察』竹林軒出張所『ダムはいらない! 新・日本の川を旅する(本)』竹林軒出張所『あるダムの履歴書(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『反骨の砦(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『金環蝕(映画)』竹林軒出張所『スエズ運河(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『巨大橋に挑む(ドキュメンタリー)』