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竹林軒出張所

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『聖 ― 天才・羽生が恐れた男(1)〜(7)』(本)

b0189364_803871.jpg聖 ― 天才・羽生が恐れた男(1)(7)
山本おさむ著
小学館ビッグコミックス

 29歳で逝去した伝説の将棋棋士、村山聖をモデルにしたマンガ。以前紹介した『聖の青春』(竹林軒出張所『聖の青春(本)』参照)が原作というわけではないようだが、内容はかなりかぶっている。9巻で完結だが、現在7巻まで読んだところである。
 エピソードの類はおおむね『聖の青春』と共通で、師匠森信雄との奇妙な師弟関係も描かれている。奨励会時代の友人との殴り合いまで出てきた(第7巻)。少年時代の羽生善治(現・王位、棋聖)、佐藤康光(現・王将)、森内俊之(現・名人)も出てくる。しかも第5巻には、『聖の青春』の著者、大崎善生まで登場している! そういう意味で非常に間口が広いという印象を受ける。巻末には、その巻のストーリーの中で村山と関わりを持つ人々(羽生、佐藤、大崎ら)の1人が毎巻「解説」を寄稿していて(「聖を語る」)、リアルな「聖」像が浮かび上がってくる。どの巻の「解説」も感動的で面白い。
 マンガだから致し方ない部分はあるのかも知れないが、特に対局シーンなどが大げさで少々辟易する。『巨人の星』や『あしたのジョー』を彷彿させるような激闘があちこちで展開される。第6巻から7巻の羽生との対局では、燃えさかる不動明王や天部が登場したり、当事者二人で原野の中で取っ組み合いしたり(どちらもイメージ)で、正直ちょっとアホらしくなる。それに羽生との対局は全部で6話費やされている(ちなみに1巻あたりおおむね8話程度で構成されている)。さながら『ドカベン』である。次の話(つまり雑誌の次号)までやけに引っぱったりという意図も見えて、雑誌ではなくまとめて読もうとしている人間にとっては、過剰な演出のようにも感じる。もっとも毎号雑誌を買って読んでいるような人にとってもイライラするだろうなと思う。
 登場人物にしても、実在の人物以外に架空の棋士やライバルが登場して、ものすごく意地悪だったり陰険だったりしていかにも少年マンガの悪役という感じで、こういう演出もどうかと思う。登場する実在の人物については、顔がおおむね似ていて(佐藤や森内、島朗ら)笑えるんだが、内藤國雄なんかはものすごくゴツい人になっていて、似ても似つかない描かれ方をしている。どうしてこういう表現にしたのか作者に訊いてみたいところだ。ましかし、こうやって実在の人物と架空の人物を混ぜ込んで話を進めるのも、僕なんかは『タイガーマスク』や『巨人の星』を思い出すんだが、昔から少年マンガの常套手段ではある。
 でもなあ……と思う。村山聖の周辺には元々が非常に感動的で面白い話があふれているのに、こういった描き方をしなければならないのかとちょっと疑問にも思うんである。そうしないと読者がついてこないという理屈かも知れないが、結果的に下卑た表現が増えて、全体の整合性や雰囲気をぶちこわしにしているような印象も持つ。僕は『聖の青春』を高く評価しているのでこういった印象になるのかも知れないが、『聖の青春』で描かれていない親子関係も出てきたりして、このマンガには決してないがしろにできない魅力があるのも確かだが、もう少し抑えた描写でも良かったんじゃないかと思いながらこのマンガに接しているのも事実なのだ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『聖の青春(本)』
竹林軒出張所『ヒカルの碁(1)〜(23)(本)』(囲碁をモチーフにしたマンガ)
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』
竹林軒出張所『シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代(本)』
竹林軒出張所『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-09-03 08:04 |
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