レハール 喜歌劇『メリー・ウィドウ』
(2012年・東京文化会館ライブ)
出演:アンネッテ・ダッシュ(ハンナ)、ダニエル・シュムッツハルト(ダニロ)、ユリア・コッチー(ヴァランシエンヌ)、メルツァード・モンタゼーリ(ロシヨン)、クルト・シュライプマイヤー(ツェータ男爵)、ロベルト・マイヤー(ニェグシェ)他
エンリコ・ドヴィコ指揮
ウィーン・フォルクスオーパー合唱団&管弦楽団
ウィーン国立バレエ団
トーマス・ベトヒャー合唱指揮
ユルゲン・フリム演出
NHK-BSプレミアム 2012年5月24、26日東京文化会館公演より

フランツ・レハール作曲のオペレッタ『メリー・ウィドウ』は、僕が一番好きな歌劇(厳密には喜歌劇)だ。今までライブで歌劇を見たのは2回しかないが、その2回とも『メリー・ウィドウ』なんだな、これが。1回目は字幕がなくてストーリーもよくわからなかったが、2回目に見たときはこじゃれた字幕が用意されていて、大変楽しめた。このときの字幕には、たとえば「えなり的とっちゃん坊や」などいったフレーズが使われていて、ちょっとやりすぎの感はあるが、『メリー・ウィドウ』の雰囲気にはよく合っていた。字幕があればもちろん楽しさ倍増だが、字幕がなくても音楽的に面白いのがこの『メリー・ウィドウ』で、とにかくメロディの宝庫と言っても良いほどあちこちに素敵なメロディが散りばめられている。一番有名なのは、最後に流れるメリー・ウィドウ・ワルツだろうが、これなんかもかつて、いわゆるイージー・リスニングのマントヴァーニ楽団が演奏したものがあるし、あちこちでときどき美しいメロディを耳にする。それから第二幕の「ヴィリアの歌」は、ジョン・コルトレーン・カルテットが取り上げたこともある(かつて『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』の初版CDに特典として収録されていた)。
音楽性だけでなく、民族舞踊が出てきたり、カンカン踊り(かんかんのうではない、フレンチ・カンカン)が出てきたりして視覚的にも楽しめる。ストーリーもオペラ(厳密にはオペレッタだが)としてはよくできた話で、恋のさや当てや駆け引きなど、なかなかこじゃれている。ちなみにかつて映画化もされており(エルンスト・ルビッチ監督
『メリィ・ウィドウ』)、多少ストーリーに手が加わっているが、よくできた映画だったと記憶している。
で、先日、NHK教育テレビの『らららクラシック』という番組を見ていたら、2012年の5月に、ウィーン・フォルクスオパーが来日公演して『メリー・ウィドウ』を演ったという話をしていて、それをハイライトで放送していた。僕としては久々に映像で『メリー・ウィドウ』を見ることになったんだが、そのとき番組の最後で、その1週間後にBSプレミアムでまとめて放送するという告知があった。本場フォルクスオパーの『メリー・ウィドウ』! 「これは見なければいけません」ということで、録画していたんだが、昨日やっとこれを見ることができたんである。
さて、今回の東京文化会館での公演では、『こうもり』、『ウィンザーの陽気な女房たち』、『メリー・ウィドウ』の3つの演目が、なんと11日間にわたって上演されている。演目はどれもフォルクスオパーの十八番で、説明の必要もないほどだ。歌舞伎の市川團十郎が海外公演するときに『勧進帳』と『助六』を持っていくみたいな感覚か。

今回の『メリー・ウィドウ』だが、さすがにフォルクスオパー、非常にウィーン風……と言いたいところだが、演出は現代的というか、舞台を現代に置き換えて演っていた。こういうのも昨今のオペラでは流行りのようだが、どうしても多少無理が生じてしまうのか、本来ならば「四阿(あずまや)」が出てくるところが「小部屋」になったりしていた(字幕では「小部屋」、原語では「Pavilion」のまま)。無理してそういう演出にする必要があるのかはなはだ疑問だが、大きな破綻はないんで、まあいいかという感じ。主人公の陽気な未亡人ハンナは、アンネッテ・ダッシュという歌手が演じていて、このお方、美しい人だが恰幅がよく、ごついハンナになっている。でもまあ好演である。恋多き人妻、ヴァランシエンヌ役のユリア・コッチーも悪くはないが、少し色気が足りないような気がした。こういう役を森麻季みたいな人がやったらちょっと面白いんじゃないかなどと勝手に想像しながら見ていた。
『メリー・ウィドウ』の中で、端役でありながらよく目立つニェグシェ(執事)という役があって、この舞台でもロベルト・マイヤーが好演していた。で、最後の全キャストのカーテン・コールのときに姿を探したんだがどこにも出ていなくて、あれぇ?と思っていたら、なんとオーケストラ・ボックスの指揮席についていて、突然オーケストラを指揮し始めたんである。なかなかしゃれた演出で、これが本場のオペレッタかと感心した。『メリー・ウィドウ』は何度見ても楽しめるなとあらためて感じた次第。もう一度映画版も見てみようかなと思ったりした。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『メリィ・ウィドウ(映画)』竹林軒出張所『歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(DVD)』竹林軒出張所『歌劇「フィデリオ」(DVD)』竹林軒出張所『歌劇「椿姫」(DVD)』竹林軒出張所『森麻季……いろっぽくて良い』