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竹林軒出張所

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『銃・病原菌・鉄 (下)』(本)

銃・病原菌・鉄 (下)
1万3000年にわたる人類史の謎

ジャレド・ダイアモンド著
草思社文庫

『銃・病原菌・鉄 (下)』(本)_b0189364_18413631.jpg ピューリッツァー賞受賞作『銃・病原菌・鉄』の下巻。上巻と同様こちらも、テーマは文明間の力の差が生じた原因の追及である。
 それぞれの文明間の力の差は、それまでに蓄積されたテクノロジーの差が元になっており、そのテクノロジーの差は、食糧生産、家畜の飼育、文化交流などの結果として生じた。そしてそれをもたらした究極的な原因は大陸の地勢の差異である……というのが著者の主張であり、上巻から下巻までその主張は一貫している。一貫しているのは良いが、同じ説明が延々と繰り返されてくどい。この点でも上・下巻で一貫している。
 上巻が総論とすれば、下巻は各論といった印象で、下巻では、上巻の主張について個別に検討するというアプローチになっている。下巻に収録されているのは第3部と第4部(それにエピローグ)で、第3部はテクノロジーごとの検討、第4部は地域ごとの検討である。個人的には第3部の文字(第12章)と発明(第13章)の2つの章が特に興味深かった。他の章のようなくどさもあまり感じず、具体性があって読みやすく、内容も割合充実していた。内容が『発明はいかに始まるか』(竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』参照)などとも共通していて説得力があり、満足度は高い。だが第4部の地域的な論になると、またまたこれまでと同じような繰り返しが頻繁に現れ、正直少しうんざりしてくる。冗長にもほどがあるってもんである。
 それに、専門家じゃないから仕方ないのかも知れないが、ところどころ事実誤認みたいな箇所もある。ちなみに著者の専門は進化生物学(など)で、本書のような人類学的、歴史学的な分野は、専門外のようにも感じられる。で、その辺の学問分野の専門性の問題については、実は「エピローグ」で触れられているのだ。つまり、過去の現象から一般化する学問(歴史学など)と、実験で条件の違いを作り出して法則性を見つける学問(物理学、化学など)とは、そもそも方法論が違っている。そのため、本書で展開されているような探求は、物理学などのような科学的アプローチと同じ方法で行えないという限界があり、それは著者の専門である進化生物学とも共通するというのだ。なるほどそう考えると、著者が本書で展開した論も、(同じ方法論を採るという意味で)あながち専門外とは言えないんじゃないかという気がしてきた。なかなか説得力がある。
 この「エピローグ」では、他にもヨーロッパと中国の歴史の違い(なぜ、これまで数千年の間先進地域であった中国がヨーロッパを侵略しなかったのかという問題提起)に触れられていて、結構読み応えがあった。また文章にもエレガンスが感じられて、密度が濃かったように思う。そういうわけで、本書を読むなら上巻と、12章、13章、エピローグをお奨めしたいと思う。とにかく冗長で長いため読み終えるのに難儀する本である。飛ばし読みで十分かも知れない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 (上)(本)』
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 第1話 文明の始まり(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『銃・病原菌・鉄 第2話、第3話(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』

by chikurinken | 2012-08-07 18:43 |
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