幸福駅周辺・上野駅周辺
山田太一著
ドラマ館
1978年にNHKの銀河テレビ小説で放送されたドラマのシナリオ本。本書に収録されている『幸福駅周辺』と『上野駅周辺』は、それぞれが10回(1回20分)のシリーズで、この2つの作品は「ふるさとシリーズ」と名うって連続で放送されたものである。
『幸福駅周辺』は、かつて日本中でブームになった北海道広尾線の幸福駅関連の話だが、実のところ舞台は愛国駅周辺である。かつて「愛国発幸福行き」の切符が爆発的に売れたが、その愛国駅に勤務する中年男(佐野浅男)と娘(木村理恵)を中心とした話で、「愛国駅周辺」とするのが正しいんじゃないかとも思うが、幸福がテーマになっていることからあえて「幸福駅周辺」をタイトルとして採用したのだろう。
都心に住んでいる若者が観光で愛国駅に来て、そこの駅員、娘らと接するところから話が始まる。この娘を嫁に欲しいという農家の男が2人いて、一生懸命アプローチするが、この娘は東京に出て歌手になりたいと思っている。一方都心から来た男は、すでに東京には未練がなく、この地で働きたいと言う。それぞれの思惑が交錯して一悶着あるがそれなりの結末に行きつくというストーリーで、実に地味なドラマである。
もう1つの『上野駅周辺』は、逆に東京に出ている地方出身者の交流を描くドラマである。東北のある町から出てきて上野駅周辺に勤めている同郷の若者たちが、東京に出てきたちょっとグズな若者の面倒を見るという話。実はこのグズな若者の父親がかつて中学の教師で、他の若者たちはいろいろ世話になっていたという設定になっている。そのため仕事なんかも世話するが、このグズな男もなかなか東京の生活になじめず、そこで一悶着というストーリーである。こちらは最後意外なところで終わっていて、少し冒険しているという印象。一方で登場人物の過剰なお節介が少々鬱陶しくも感じる。
どちらのドラマも山田太一作品の中では地味なもので、僕自身タイトル以外知らなかったが、考えてみれば銀河テレビ小説自体地味な作品が多かった。ただ地味ではあっても滋味があるドラマも結構あったような気がする。おそらく今では映像もあまり残っていないのではないかと勝手に想像するが、たとえ残っていても、20分(以前は15分)という枠であったことを考えると、今となっては見る機会もあまりないだろうと思う。シナリオが残っているものはシナリオで読むしかないのかも知れない。
なお、このシナリオだが、スタッフに向けたト書きが結構多く、読みものとして読むには多少違和感があったことも付記しておきたい。たとえば、『上野駅周辺』の第8回のシーン10の最後、「このシーン、頭の方から妻の哀れさを思わせる音楽で押して、次の次のシーンまで、こぼれる。」とあり、それを受けてシーン12の最初のト書きで「音楽、終わって。」と続く。ドラマの1シーンが思い浮かぶほど具体的だが、読みものとして考えると少し興を削がれるような思いもする。シナリオはそもそも読みものじゃないと言われればそれまでだが。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『夏の故郷 -総集編-(ドラマ)』竹林軒出張所『午後の旅立ち(本)』竹林軒出張所『空也上人がいた(本)』竹林軒出張所『秋の駅(ドラマ)』