ベートーヴェン 歌劇『フィデリオ』
(2004年・チューリヒ歌劇場ライブ)
出演:カミラ・ニルンド(フィデリオ実はレオノーレ)、ラズロー・ボルガール(ロッコ)、アルフレート・ムフ(ドン・ピツァロ)、エリザベス・ラエ・マグナソン(マルツェリーネ)、ヨナス・カウフマン(フロレスタン)他
ニコラス・アーノンクール指揮
チューリヒ歌劇場合唱団&管弦楽団
エルンスト・ラフェルスベルガー合唱指揮
ユルゲン・フリム演出

『フィデリオ』はベートーヴェン唯一のオペラ。25年くらい前に大阪のフェスティバル・ホールで『フィデリオ』のオペラ映画を見たことがあるが、見たという事実以外あまりはっきりした記憶はない。無実の罪で捉えられている男を彼の妻が男装して助けるという話だったよなあという程度で、この妻が悪役の男に体を求められたりしたような記憶もある。ただし体を求められるのはよくよく考えるとプッチーニの『トスカ』のストーリーで、あちこちごっちゃになっていてやはり記憶は曖昧である。
以前も書いたが(
竹林軒出張所『モーツァルト 歌劇ドン・ジョヴァンニ(DVD)』参照)、オペラ映画(ドラマ形式のオペラ)という代物にはどうにも違和感があり、フェスティバルホールで見たときはそれが大層気になっていた上、長い上演時間に退屈した記憶がある。今回は舞台のライブということもあって前ほど違和感はないが、やはり2時間延々と歌が繰り返されるので(オペラなんで当たり前だが)退屈さは感じる。とは言え、ベートーヴェンの音楽はやはりなかなかのもので、感じるところもあった。演技はどの歌手もこなれており、性格付けもしっかり行われていてよくできていたように思う。大道具は簡潔で少しもの足りない印象があり、また衣装も現代的な感じで多少違和感があった。とは言っても、他の『フィデリオ』をたくさん聴いたり見たりしているわけではないので、正直なところこの演奏がどの程度のレベルかはよくわからない。ただレオノーレ役のカミラ・ニルンドは端正で、なかなか素敵な「男装の麗人」だった。このあたりちょっと宝塚を彷彿させるモチーフである。

ちなみにこの『フィデリオ』、発表当初は『レオノーレ』というタイトルで発表されており、ベートーヴェンはその後2回改訂している。そうして最終版の『レオノーレ』バージョン3のタイトルが『フィデリオ』に変えられたんだそうだ。だから当然のことながら『レオノーレ』と『フィデリオ』には共通する部分も多い。『レオノーレ』の上演はあまり行われる機会はないようだが、『レオノーレ』と『フィデリオ』をカップリングしたCDというのもあって聴き比べできる(
『ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」、レオノーレ全曲』
、このCDが
先述のベートーヴェン全集に収録されている)。今回『フィデリオ』を見たのもこのCDを入手したのがきっかけである。僕も少し聴き比べてみたが、構成は違っているが多くが共通しているという印象だ。ま、そりゃそうだわな、改訂版なんだから。バージョン2からバージョン3になっただけだし。そうすると『レオノーレ』の方を上演したりCDを発売したりする意味はあるのかしらんなどとも思うわけだ。ともあれ、外国語のオペラは目で見ないことには音楽を聴いただけではさっぱり意味がわからないので、この『フィデリオ』を見たことで、CD版の『フィデリオ』も『レオノーレ』もある程度堪能できるようになった気がする。少なくとも頭の片隅に各シーンが残っている……今のところは。いずれ忘却のかなたに消えてしまうかも知れないが。
★★★参考:
竹林軒出張所『ベートーヴェンの使い回し』竹林軒出張所『歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(DVD)』竹林軒出張所『喜歌劇「メリー・ウィドウ」(放送)』竹林軒出張所『歌劇「椿姫」(DVD)』