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竹林軒出張所

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『マーラー 君に捧げるアダージョ』(映画)

マーラー 君に捧げるアダージョ(2010年・独墺)
監督:パーシー・アドロン、フェリックス・アドロン
脚本:パーシー・アドロン、フェリックス・アドロン
出演:ヨハネス・ジルバーシュナイダー、バルバラ・ロマーナー、カール・マルコヴィクス、エヴァ・マッテス

『マーラー 君に捧げるアダージョ』(映画)_b0189364_7533797.jpg 作曲家のグスタフ・マーラーとその妻のアルマ・マーラーとの関係を描いた伝記映画。
 アルマとグロピウス(建築家)の不倫のせいで神経衰弱状態に陥ったグスタフ・マーラーが、精神科医、フロイトのところに赴くところから話は始まる。で、フロイトの治療、つまり心の中にあることを語らせるという方法によって、マーラーにアルマへの思いを語らせ、回想形式に持っていくというなかなか巧妙な構成になっている。ところどころ、周辺の関係者がカメラに向かって、インタビューに答えるかのように彼らについて語るシーンが挟まれ、このあたりの構成はドキュメンタリー・タッチになっている。このインタビュー風の部分に登場する人々には、ツェムリンスキー(作曲家)、クリムト(画家)、ブルクハルト(演出家)、ブルーノ・ワルター(指揮者)も含まれ、実に多彩である。もっともすべてフィクションであり、それぞれ役者が演じているに過ぎない。しかしドキュメンタリーを感じさせるような演出で、アルマ・マーラーの華麗な人間関係(恋愛遍歴)の一端が覗けるような豪華絢爛な登場人物群である。
 この映画の核心部分は、マーラー夫妻の関係性で、このあたりはうまく解釈を施していて大変わかりやすい。単に好奇の目でアルマを扱うのではなく、一人の女性の人生として真摯に分析している点に好感を持てる。解釈に破綻もなく共感できるような話に仕上がっている。共感できなかったのはキャスティングで、特にアルマを演じた女優に華がなく、とてもじゃないが「ウィーン随一の美女」(ワルター談)には見えない。どうしてこの女優を起用したのかまったくわからない。演技云々じゃなくて見栄えのことを言っているのであって、この女優が悪いとかそういうことではなく、アルマという役柄に合っていないんじゃないかということである。風貌は少し似ているような気もするが、たとえ似ていても与える印象がまったく違うということはままある。そんなわけでこのアルマにはガッカリなのだった。クリムトやワルターは似た役者を起用していてこちらは映画に良い雰囲気を与えている。マーラーを演じたジルバーシュナイダーもメイクなどで似せた風貌にしていて悪くない(何より神経衰弱加減がうまく表現されていて好演であった)。ともかくアルマには、似てなくて良いから「ウィーン随一の美女」にふさわしい女性を起用してほしかったと思うのである。そうそう、背景には、タイトルが示すようにマーラーのアダージョ(やアダージェット)がふんだんに流れます(交響曲第4番、5番、9番)。
★★★

参考:
竹林軒出張所『アルマ・マーラー ウィーン式恋愛術(本)』
竹林軒出張所『別れの曲(映画)』
竹林軒出張所『ラフマニノフ ある愛の調べ(映画)』
竹林軒出張所『チャイコフスキー(映画)』
by chikurinken | 2012-05-21 07:56 | 映画
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