最近、銅版画で検索してこのブログに当たっている方が何人かいらっしゃいまして、そういうこともあって久々に銅版画の解説などをしてみようかなと思い立ちました。
銅版画の技法の一つにメゾチントというものがあります。前にも書きましたが(
竹林軒出張所『ちょっとだけドライポイント』)、ただでさえ廃れかかったマイナーな技法である銅版画の中でも、さらにマイナーな技法と言えるかも知れません。ではメゾチントとは? ということで今回はメゾチントについて少しご紹介を。

銅版画の基本は、前にも書いたように、溝にインクを詰めてそれを刷り取るというものです。メゾチントではこの溝を縦横無尽に入れてしまいます。そのまま印刷するとどうなるかおわかりでしょうか。なんと全面真っ黒になってしまいます。これに「夜」などとタイトルを入れて一枚の絵にしてしまうのも一興ですが、もう少し洗練されたものにするために、この溝を一部削り取るようにします。この削り取り具合で、黒の階調を調節することができます。完全に削り取って平坦にしてしまえば白になります。そこら辺をうまいことやると、黒地を背景に白い部分が入った絵を作成できるというわけです(右の図 --文房堂のカタログより-- 参照)。
このメゾチントという技法、元々は模写のための手段だったらしく、油彩などの大きめの作品を、小サイズのモノクロ版画として転写し、これを普及版として販売するということが行われていたようで、今でも当時の細密なメゾチントが残されています。少しずつ削っていくという地道な作業であるため、技法的にさっさと済ますという類のものではなく、そのために緻密な表現が可能になるということです。

なお、使用する道具は、溝を縦横無尽に入れる(これを「目立て」と言います)ための道具と削り取るための道具の2種類が最低でも必要です。前者は、一般的にはベルソー(ロッカーとも呼ぶ)が使われますが、ルーレットと呼ばれる「コロコロ」みたいな道具や、カッターナイフなどでも代用できます。ベルソーもルーレットも結構お高くなっています。需要があまりないことを考えれば致し方ないとも言えます。目立ては時間がかかる面倒な作業であるため、通常あまり大きな版は作れません(最近は機械を使って大判を作る人もいる)。目立て道具を持っていなかったり自分でやるのが面倒だという人向けに目立て済みの小サイズの銅板も売られています。削り取るための道具はスクレーパーやバニッシャーですが、こちらは銅版画で一般的に使う道具です。こういった原始的な道具を駆使して、銅板に立ち向かっていくのがメゾチントです。
メゾチントは一度は廃れた技法で、それを長谷川潔という人が復活したという話です。その後、浜口陽三という人がカラーメゾチントの技法を確立したということで、そういうこともあってか、日本ではメゾチントは比較的よく知られていますが、よそではマイナーな存在のようです。
私も最近メゾチントの作品を何点か集中的に作りました。率直な実感は「手間がかかる!」ということで、とにかく終えるまで、場合によっては何ヶ月もかける必要があります。それでもやはり、メゾチントで表現される黒の魅力はナカナカで、ちょっと「やめられまへんなあ」というところもあるのです。今は少しメゾチントから離れていますが、いずれ再開しようと思っております。
参考:
女子美術大学版画研究室『メゾチント』
竹林軒出張所『模写好きの弁』
竹林軒出張所『アーリング・ヴァルティルソン メゾチント銅版画展』
竹林軒出張所『ちょっとだけドライポイント』
プチギャラリー
レンブラントとカラヴァッジオ

メゾチントはやっぱり模写でしょうの一枚と定番のヌード