宮大工と歩く奈良の古寺
小川三夫著
文春新書

先日紹介した
『棟梁 技を伝え、人を育てる』の小川三夫が、奈良のいろいろな寺に出向いて、宮大工の目でその建築を語る。今回も聞き書き担当は塩野米松。
本書では、『棟梁 技を伝え、人を育てる』のようなぞんざいな語り口は影を潜め、きわめて普通の語り口になっている。そのため、読んでいて違和感はない。小川三夫の口から語られる内容は非常に専門性が高く、大変興味深い。残念なのは写真や図が少ないため、語っている内容をよく理解できない箇所が多いことである。この本を持って実際に現場に足を運び、細部をチェックしながら見ればある程度理解できるかも知れないが、それでもやはり図や専門用語の解説がもう少し欲しいところだ。同じように、著者の師匠である西岡常一棟梁が現場に出向いて法隆寺と薬師寺について語る本もあるが(
『木に学べ―法隆寺・薬師寺の美』
)、こちらは図版や写真が豊富で理解しやすかった。小川三夫の解説も西岡常一と同様、わかりやすくレベルが高いが、図版を省略したばかりにわかりにくくなってしまったところがある。小学館と文春の出版に対する取り組み方の姿勢の違いが現れているのだろうか。
本書で紹介されている寺は、法隆寺、法輪寺、法起寺、薬師寺、唐招提寺、東大寺、興福寺、元興寺、十輪院、室生寺、秋篠寺、長弓寺で、ちょっと多すぎではないかという印象はある。実際、割かれている紙数も寺によって随分違っていて、付け足しみたいなものもある。だからいっそのこと、いくらかを切り落として、その分写真と図版にページを割けば、小川氏と一緒に現場に出向き、解説を聞いているような錯覚を覚えたんではないかと思う。本書の目的もそういうところにあったんじゃないかと思うんだが、そのあたりが返す返すも残念である。内容が非常に良いだけに惜しい。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』