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竹林軒出張所

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『帽子』(ドラマ)

帽子(2008年・NHK)
演出:黒崎博
脚本:池端俊策
出演:緒形拳、玉山鉄二、田中裕子、笠原秀幸、朝倉あき、岸部一徳

『帽子』(ドラマ)_b0189364_818441.jpg 広島県の呉市にある帽子屋、高山帽子店の老主人が主人公。子どももすでに東京に出ているため、現在一人暮らし。仕事の方も需要が少なくなり、物忘れもひどくなって仕事も以前のようには行かなくなる。そういう状況で、ふとしたきっかけで昔愛した女性の消息がわかり、東京に会いに行く。その女性と生き別れた彼女の息子(主人公と顔見知りの存在)もこれに同行するんだが、この辺の展開は偶然に頼りすぎで思わず「ナイナイ」とツッコミを入れたくなる。こういう過剰な偶然が出てくるドラマに接すると、もう少し軽く流せば良いのにと思う。それはともかく、脚本担当の池端俊策は、呉出身だということで、彼にとってはそれなりに思い入れのあるドラマなんじゃないかと推察できる。偶然に頼りすぎな点を除けば割合よくできた話で、ベタな部分や予定調和な部分もあるにはあるが、よろしいんじゃないかと思う。
 2008年にNHK広島で製作されたドラマで、僕自身は緒形拳追悼企画で一度目にしている。ただしそのときは、あまり期待できそうになかったので、途中で見るのをやめた。今回通して最後まで見たが、見て良かったか?と訊かれれば、見なくても良かったかも知れないと答える……かな。だが、大傑作ではないにしても、テレビ・ドラマとしては及第点と言えると思う。
 主役の緒形拳はこのドラマの撮影後死去した。また途中ちょい役ででてくる牟田禎三もその直後に亡くなり、このドラマが遺作になった。僕としては新作ドラマの感覚で見ているので、死んだ人間が普通に出ているとなんとなく複雑な気分になる。緒形拳が老人役をしている他、田中裕子も初老の婦人を演じていて、そういう設定も僕にとっては何だか複雑。こういう人達は若い頃からテレビで目にしていたため、いまだにその頃の年齢のイメージがあるんだが、老人役の年齢になったのか……と思う。僕も年をとるわけだ。そう言えば、緒形拳と田中裕子は映画の『北斎漫画』(竹林軒出張所『北斎漫画(映画)』参照)でも共演していた。そのときは親子役だったが。
 このドラマで一番感じるところがあったのは、高い技術がありながら需要がなくなって廃業間近という帽子職人の設定である。こういう職人が持つ貴重な技術を、このまま市場原理にまかせて廃れさせるのは本当に良いことなのか……実はドラマのストーリーよりそちらの方がずっと気になっていた。本当に何とかしないと、失ってからでは取り戻せないものが日本からたくさん失われていくような気がして、少し心配になっている昨今である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『無垢の島(ドラマ)』
竹林軒出張所『命のあしあと(ドラマ)』
竹林軒出張所『鯉昇れ、焦土の空へ(ドラマ)』
竹林軒出張所『火の魚(ドラマ) 』
竹林軒出張所『“くたばれ” 坊っちゃん(ドラマ)』
by chikurinken | 2012-04-23 08:18 | ドラマ
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