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竹林軒出張所

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『棟梁 技を伝え、人を育てる』(本)

棟梁 ― 技を伝え、人を育てる
小川三夫、塩野米松(聞き書き)著
文藝春秋

『棟梁 技を伝え、人を育てる』(本)_b0189364_838567.jpg 法隆寺の鬼、西岡常一棟梁(竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』参照)の最初にして最後の内弟子、小川三夫が語るものづくり、職人観、組織論、弟子育成論など。
 著者の小川三夫は、高校の修学旅行のときに法隆寺の五重塔を目にして、自分もこういうものを造ってみたいと思い立ち、西岡常一に弟子入りした。当初は何度も拒まれたが、結局内弟子として入門し、法輪寺や薬師寺の復興に携わる。その後30歳で独立して鵤工舎(いかるがこうしゃ)を創業し、寺社建設を請け負いながら、独特の徒弟制度で弟子を育成している。本書では、西岡棟梁との関係の他、鵤工舎での弟子との関係などにも言及する。弟子をどうやって育てているかという話は、一般的な組織にも通じるところがあり、非常に深く示唆に富む。組織論としても一級品である。ただし誰でもが真似できるようなものではないというのは読んでいて容易に想像がつく。そのあたりがこの小川氏の偉さなんだろうと思う。ものづくりに携わる工人としての心構えやあるべき態度まで語られており、こちらも感心することしきりである。同時に大変耳が痛い思いをする。ものづくりに当たっては真摯に取り組まなければならないということをあらためて肝に銘じた。
 職人としての矜持や思いが随所にちりばめられた本で、小川氏の人生観が大変心地良い。本書を読んでいて、尊大な印象を受けることはまったくなく、ただただ小川氏の人間性に惹かれる思いがする。
『棟梁 技を伝え、人を育てる』(本)_b0189364_8391612.jpg ただ内容はともかく、聞き書きであるためか、言葉遣いが少々乱暴な気がする。小川氏はテレビでもお見受けしたことがあるが、慇懃で非常に人当たりも良いという印象で、本書の記述からはそれとは少し違う印象を受けた。どうも聞き書き担当の塩野米松氏の過剰な演出ではないかと思うがどうだろう。本書で語られている内容は非常に充実しているが、書かれている言葉遣いには違和感を感じる。もう少しどうにかならないものかとたびたび感じた。また改行がやたら多いのもいかがなものかと思う。読みやすいには読みやすいが。
 なお本書には文庫版もあるようだ。また、本書でも何度か言及されているが、『木のいのち木のこころ―天・地・人』という本では、若い頃の小川氏が西岡棟梁との関係などを語っている。こちらも塩野米松が聞き書きしている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『宮大工と歩く奈良の古寺(本)』
竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』

by chikurinken | 2012-04-19 08:40 |
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