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竹林軒出張所

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『宮大工西岡常一の遺言』(本)

宮大工西岡常一の遺言
山崎佑次著
彰国社

『宮大工西岡常一の遺言』(本)_b0189364_7404517.jpg 西岡常一は、かつて「法隆寺の鬼」と呼ばれた宮大工で、法隆寺の昭和の大修理や薬師寺の再興に関わった人。関わったと言うのは必ずしも正確ではない。むしろ棟梁として仕事をリードしたのである。薬師寺の西塔を復刻したのもこの人だし、現在進んでいる伽藍再興の指揮を執ったのもこの人。なんせ、飛鳥時代に使われたが現在ではなくなっている大工道具(槍ガンナなど)を復元し、それを使って修復工事をやったというのだからただものではない。
 一方で、薬師寺金堂の建設の際、役人が、耐久性が問題だから鉄骨で作れと主張するのに真っ向から反対し、木だけだったら1000年以上持つ建物が作れるのに、なんだって100年も持たないコンクリートをわざわざ使わなきゃならんのだと主張したという頑固な面も持つ。「法隆寺の鬼」と呼ばれるようになったのもこの当たりの頑固さが由縁である。しかし言っていることは一々もっともで、僕などは、薬師寺金堂にコンクリートが入っているという話を最初に聞いたときガッカリした気分になったものだ。つまり結果的に西岡棟梁の主張は却下され、国宝の仏像が入っているからという理由で強行突破されたのだった。ただ西岡棟梁の方もさるもので、なんでもコンクリートの鉄骨部分は、次の解体時にその部分だけ除去できるようにしたらしい。要するにこの部分は、入れるには入れたがあってもなくても良いもので、いずれは木だけの建築物にすることができるというわけだ。こういうところもなかなか振るっている。
 そういうこともあり西岡常一関係の本は一時期結構読んで、あげくに『木に学べ―法隆寺・薬師寺の美』を片手に法隆寺、薬師寺めぐりをしたほどである(この本のおかげで法隆寺に長居しすぎて時間がなくなった)。また、西岡常一関係の映像(ビデオやテレビ番組)も極力チェックしてきた。言ってみれば、熱烈な西岡ファンの1人ということになる。
『宮大工西岡常一の遺言』(本)_b0189364_7431564.jpg そういう僕が先日、その西岡棟梁を扱ったドキュメンタリー映画が作成され近々劇場公開されるという話を聞いた(『鬼に訊け』)。実は東京などではすでに公開されているのだが、僕の住むこの地方都市では5月になってからということなのだ。で、そのドキュメンタリーの監督が、本書の著者の山崎佑次という人なんだそうだ。そういういきさつで、今回この本を読んだのである。
 本書の内容はと言えば、取材メモの延長みたいなもので、大体は他で語られていることであり、目新しさはあまりない。しかも解説が著しく足りず、本書で語られる用語すらよく把握できないという箇所もある。独立した一冊の本としては中途半端で面白味に欠けると言わざるを得ない。もし最初に西岡棟梁関係の本を読もうというのであれば、先ほど紹介した『木に学べ―法隆寺・薬師寺の美』や『木のいのち木のこころ〈天〉』(現在3分冊を1冊にまとめた文庫版がある)、『西岡常一と語る 木の家は三百年』なんかの方が圧倒的に面白くわかりやすい。ただ本書は映画『鬼に訊け』との兼ね合いがあってその撮影記みたいな側面もあるため、映画を見る上で多少興味深い箇所もある。まあ要はそういった本である。西岡常一の職人魂や宮大工哲学にも触れることはできるが、もう少しわかりやすくするとか構成を工夫するとか、何かやり方はなかったのかと思う。そのあたり少し残念である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』
竹林軒出張所『五重塔はなぜ倒れないか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『よみがえる金色堂(映画)』
竹林軒出張所『五重塔(本)』
竹林軒出張所『完全再現!黄金期のフランス古城(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-04-07 07:43 |
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