修羅の旅して
(1979年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:早坂暁
出演:岸恵子、中条静夫、檀ふみ、岸部一徳、長岡輝子、中村翫右衛門、楠トシエ、佐々木すみ江、丹波義隆、亜湖、織本順吉、中村久美

自分に忠実に生きてきたために親族(特に兄)から疎まれてきた中年女性、日輪子が、母親の危篤の知らせで田舎に帰る。そこでは当然のごとく歓迎されない。この段階でこの女性の立ち位置がわかるが、やがて話が進むにつれてこの女性の過去もわかり、なぜ親族がそれを疎んじているかもわかってくる。一方で母との関係も少し複雑なものがあり、同時にこの女性には子どもがいて今は離れて生活していることも明らかになる。主人公の女性の身の回りが結構入り組んでいるが、だからといってわかりにくいということはない。脚本の早坂暁も力を入れて書いているのがよくわかる。
自分自身のありように正直に生きることが周囲にはわがままと映ることは良くあるが、70年代を生きた人々、とりわけ女性にとっては、さまざまな偏見やしがらみが多く、正直に生きると周りからひどい扱いを受けることが多かったようだ。このドラマではそういう人々の生き様を描いているのだが、日輪子を演じた主演の岸恵子は、かつてフランス人の映画監督、イヴ・シャンピと国際結婚して、周囲にひどいバッシングを受けた経験を持つということで、そういう意味でも適役であったと言える。当の岸恵子自身、このドラマに対する思い入れが非常に強かったようだ。このドラマは2002年に『NHKアーカイブス』で放送されたが、そのときにゲスト出演し、このドラマを見ると涙が止まらないと言っていた(このときの様子もDVDに収録されている)。自身の生き様と重なる部分があるんだろうが、このドラマを見た僕には、残念ながらそれほどの感慨は湧かなかったのだ。正直、90分のドラマにしてはちょっといろいろ盛り込みすぎているんじゃないかと感じた程度で(米兵による婦女暴行事件、年の差婚、別れた子どもとの出会い、三角関係など)、岸恵子ほど、気持ちの奥深いところで捕らえることができなかった。
深町幸男の演出は正攻法で、まったく破綻がない。じっくり腰を据えて見ることができるドラマだが、やはり話の中にいろいろなものを詰め込み過ぎじゃないかという感覚は最後まで残ったのだった。
第20回モンテカルロ国際テレビ祭ゴールドニンフ賞
国際批評家賞受賞作
★★★☆参考:
竹林軒出張所『夢千代日記 (1)〜(5)(ドラマ)』竹林軒出張所『花へんろ 風の昭和日記 総集編(ドラマ)』竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』竹林軒出張所『刑事(ドラマ)』竹林軒出張所『ダウンタウンヒーローズ(映画)』