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竹林軒出張所

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『西洋美術史入門』(本)

『西洋美術史入門』(本)_b0189364_8121850.jpg西洋美術史入門
池上英洋著
ちくまプリマー新書

 西洋美術の見方をわかりやすく解説する本。
 近代以前の西洋絵画は、絵画を購入するパトロンがいて初めて成立するものであったため、それぞれの絵画には必ずパトロンの意向が反映されている。それは題材であったり、メタファー(暗喩)として使われている素材であったりする。そういう素材の背景を解き明かす学をイコノグラフィー(図像学)と呼ぶ(らしい)のだが、そういうものをひっくるめて、それぞれの西洋絵画の背景を調べ、絵画の成り立ちを知ることで本当の意味で絵画を鑑賞してみようじゃないかというのが本書の主張である。
 中世にキリスト教関係の絵画が多いのは教会が発注主だったためで、描かれた題材にもそれぞれ意味がある。本書では、数多くの矢を受けている聖セバスティアヌスの絵を例としてあげているが、これは当時ヨーロッパに流入してきたペストに関連しているという。多数の矢を受けながら死ななかった聖セバスティアヌスの絵が、ペストという矢を射られながらも生き延びたいという人々の願掛けの対象になったということらしい。こういういきさつで、聖セバスティアヌスの絵が当時流行したんだという(本書ではマンテーニャとゴッツォリの絵が紹介されている)。
『西洋美術史入門』(本)_b0189364_8211079.jpg 一方、近代では市民階級が台頭し、美術品を市民が購入するようになる。そのために小さめで、なおかつ題材も殉教などの重いものではなく風景、静物などの軽い素材が選ばれるようになった。そのためにたとえばオランダでフェルメールのような作家が職業画家として成立するようになったという。またスペインでは、貧しい人々の絵が多く描かれたが、これも注文主が慈善活動をアピールするためだったなど、これまで知らなかった事実が多く、非常に勉強になった。西洋の近代以前の美術を現代的な見方で見てはならないということがよくわかる本で、文章も非常に読みやすく、大変わかりやすい親切な一冊であった。図版も多く掲載され、口絵には一部の図版のカラー版も(白黒版と重複して)載っている。そういう点でも非常に親切。
★★★☆
by chikurinken | 2012-03-27 08:12 |
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