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竹林軒出張所

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『史上空前の論文捏造』(ドキュメンタリー)

史上空前の論文捏造(2005年・NHK)
NHK-BS1 ハイビジョン特集

『史上空前の論文捏造』(ドキュメンタリー)_b0189364_9193464.jpg アメリカ、ベル研究所の花形研究者、ヘンドリック・シェーンによる大規模な論文捏造事件を扱った1時間半のドキュメンタリー。2004年にBSで放送されたBSドキュメンタリー『史上空前の論文捏造』(50分、カナダ「バンフテレビ祭」でロッキー賞を受賞)を焼き直したものと思われる(未確認)。1時間半の番組だが、9章構成にするなどよく整理されている上、事件の経緯もわかりやすく、最後まで興味を持続させる構成は見事である。
 ベル研究所の研究者、ヘンドリック・シェーンは、2001年から2002年にかけて、高温超伝導の研究論文をたてつづけに発表し、その内容が画期的だったこともあって、世界中の科学者、研究者から一躍注目を浴びた。若干31歳にして次々に成果を上げ、ノーベル賞にもっとも近い男と言われるまでになった。でも、ただひとつ違っていたのは……シェーンの実験は誰も追試、再現ができなかったことである。
 そういうこともあり、脚光を浴びた研究者でありながら一部の研究者からは疑問が持たれていた。ただ名門、ベル研究所の研究者であり、しかも共同研究者として超一流の学者が名を連ねていたため、告発されることがなかったのである。何より他の研究者の論文に疑義を挟むことは、研究者間の信頼関係を揺るがせるものである上、ベル研究所から逆に告訴される可能性もあるということで、どの研究者も告発に二の足を踏んだのだった。それどころかむしろ、シェーンには特殊な装置(他の研究者からは「マジックマシン」と呼ばれていた)があって、しかも神がかり的な技能を持っているために、画期的な実験結果を出すことができるのだろうという結論を導きだし、自分の側の未熟さを感じるという方向に多くの研究者は向かったのである。
 だがやがて、シェーンの数々の論文に同じデータが使い回しにされていることが判明したために、ベル研究所側も動かざるを得なくなる。不正調査委員会が設置され、シェーンの論文の検討が進められた。結果的に、シェーンの論文のデータがいい加減なもので、数々の画期的な発見は捏造であることが判明する。その後、シェーンはベル研究所を解雇され、行方をくらませることになるのだった。
『史上空前の論文捏造』(ドキュメンタリー)_b0189364_919578.jpg 番組では、論文発表の場となった科学雑誌や物理学会、共同研究者などの責任についても疑問を挟んでいるが、結局はどれも捏造に歯止めをかける機能を果たせなった、そしてその性質上果たすことができないということがわかる。なにしろ物理学には捏造を許してしまいがちな土壌があるらしい。そうは言っても、シェーンの捏造論文によって、多くの研究者が多くの時間と多大な予算を費やすことになって、相当な浪費を強いられることになったのは事実である。
 このドキュメンタリーでは、物理学に関係ない僕のような一般人にもわかるように説明されており、シェーンの研究論文がどのようなもので、どのように画期的であったか(ある程度)わかるようになっている。そもそもこういう事件があったことすら僕は知らなかったわけだし……。非常にわかりやすく、しかもテーマがよく絞られたドキュメンタリーで、さまざまな関係者へのインタビューも敢行されている。優れたノンフィクション書を思わせるような充実した内容のドキュメンタリーだった。ちなみに、この番組のスタッフが書いたというノンフィクション書もあるようだ(『論文捏造』)。興味のある方はそちらに当たられたし。
第46回科学技術映像祭 文部科学大臣賞受賞
★★★★

参考:
竹林軒出張所『調査報告 STAP細胞 不正の深層(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡 東大研究不正(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-03-05 09:26 | ドキュメンタリー
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