ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『ガスランド』(ドキュメンタリー)

ガスランド 〜アメリカ 水汚染の実態〜 前編、後編
(2010年・米Gasland Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

『ガスランド』(ドキュメンタリー)_b0189364_10114686.jpg アメリカでの天然ガス採掘による水汚染、大気汚染の実態を告発するドキュメンタリー。
 アメリカ合衆国の地下には天然ガスを含む膨大な岩盤があり、少し前にこのガスを採掘する技術が実用化された。このガスがシェールガスで、シェールガスを採掘する技術を水圧破砕法という。要は岩盤に縦穴と横穴を開け、そこに大量の水および化学物質を注入することで岩盤に圧力を加えて、中に含まれるガスを地上に逃がすという方法らしい。ところがこのときに使われる化学物質は596種類以上で、人体や自然環境にきわめて有害なものも数多く含まれる。
 で、現在すでにアメリカ合衆国の各地でシェールガス採掘が進められているんだが、周辺環境に及ぼす影響は案の定甚大である。このドキュメンタリーは、その実態を紹介していくというもので、作ったのはGasland Productionsという制作会社(?)。名前から何となくわかるように、このドキュメンタリーを作るための団体のようで、作者も元々プロのドキュメンタリー作家ではない。
 ある日、このドキュメンタリーのディレクター、ジョシュ・フォックスの元に、10万ドルと引き替えに所有地のガスの採掘を認めて欲しいという手紙がガス採掘会社から届く。ただしこの契約には守秘義務があり、周囲で起こったことを口外してはならないという条項がある。これに疑問を感じたジョシュ(最初はそんなにうまい話があるのかと思ったという)は、カメラ片手に、同様の方法で天然ガスの採掘が行われている地域に赴き、実際の状況を把握しようとする。そしてそこで見たのは、驚くべき実態であった。水道から出てくる濁り水、近隣に大量に放出され続ける怪しげな気体、火がつく水道水、生き物が大量死する川、得体の知れない液体であふれかえるため池など、とても人が住める状況ではない環境が広がっていた。現地の住民に訊くと、やはり同様の守秘義務付きの契約書が送りつけられていたことがわかる。契約をしてしまった人はカメラの前でも公言することはできないのだった。しかしとは言え、実際問題、かれらの多くは健康被害で苦しんでおり、地下水はもちろん飲めないし、牧場の動物は、そういった飲めるはずのない水を飲んでいるというのが実情である。住民の生活を完全に無視した、非人道的な開発が、先進国アメリカで展開されているという事実に驚く。これが民主国家で行われる所業なのかと思うほどである。
『ガスランド』(ドキュメンタリー)_b0189364_1011194.jpg そもそもこういった環境汚染が許されることになったのは、先のブッシュ政権において、石油・ガス採掘会社に環境保護関係の法律を適用しないで良いという規定が成立したせいで、国家の利益が市民の利益に優先されるようになったせいだという(当時の副大統領チェイニーがハリバートン -- ガス採掘技術を持つ企業 -- のCEOだったことが影響しているらしい)。そのためもあり、各地に展開している環境保護局もまともに環境調査を行わなくなり、環境破壊は数年で著しく進展していった。
 まもなくニューヨークの水源である河川の周辺もシェールガス採掘対象になるということになり、ニューヨークで公聴会が行われるが、後編ではそのあたりの政治状況を中心に取材が行われる。人を喰ったような理屈をこねる採掘側の代表者と、その代弁者の政治家、一方でこれに噛みつく住民側の代表という構図が展開されるが、このあたりは日本の原発行政、土木行政でお馴染みの光景である。この公聴会では、採掘を認めないという方向で結論が出たようだが、採掘会社側は今後別の方法で切り崩しにかかると見られる。この辺も日本の行政と同じ。
 ともかく全編を通じて、生き物の死体がプカプカ浮かぶ川といい、水道水に火がつく光景といい、ショッキングな映像が次々に紹介され、環境汚染の実態が画面を通じて痛いほど伝わってくるドキュメンタリーで、ディレクターの驚きがそのまま番組の中で再現されたかのようである。素人ディレクターとは思えない見事な編集で、テンポも非常に良くまったく飽きさせることがない。
 で、僕自身の結論として、シェールガスなんてやっぱりダメじゃんとあらためて認識することになったのだ。『脱原発。天然ガス発電へ』という本で救世主として紹介されていたシェールガスだが、僕自身も(おそらくディレクターのジョシュ同様)やはりそんなにうまい話があるわけないという結論に達したのだった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『シェールガス開発がもたらすもの(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『岐路に立つタールサンド(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『脱原発。天然ガス発電へ(本)』
竹林軒出張所『プロミスト・ランド(映画)』
竹林軒出張所『華氏119(映画)』
竹林軒出張所『ニュース砂漠とウイルス(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2012-02-03 10:13 | ドキュメンタリー
<< 藍川由美『喜びも悲しみも幾歳月... 『へうげもの』(1)〜(39)... >>