分量が多くなってしまったので、本、ドキュメンタリーは別枠にしました。また、今年は、福島第一原発の事故もあり、原発関連の本、ドキュメンタリーに多く接していますので、それについてもさらに別枠にしました(
明日、掲載予定)。
(リンクはすべて過去の記事)
今年読んだ本ベスト5
1.
『原発ジプシー』2.
『予想どおりに不合理 増補版』3.
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』4.
『土の文明史』5.
『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男』番外:
『地を這う魚 ひでおの青春日記』 今年は原発関連の本をよく読んだが、そんな中でも特に出色だったのが『原発ジプシー』で、原発という表に出にくい領域に入ったというだけでなく、ルポとして最上級のものになっている。今年新装版が再発されたこともあり入手しやすくなった。どこの図書館にも入っているのではないかと思う。機会があれば是非読んでいただきたい。社会の暗部がこれだけはっきりと照らし出されている本はめったにないと断言できる。言うまでもなく、原発を知るための本としても恰好である。
『予想どおりに不合理』は、今までまったく知らなかった行動経済学の事実が提示されて、大変新鮮な「目からウロコ」の本であった。内容は高度だが、読みやすくなおかつ非常にわかりやすい。しかも説得力がある。何度でも読み直したい本である。
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』は、日本格闘技史の大著。著者の怨嗟が全編を貫きながらも、上級のエンタテイメントになっている。こちらも(僕にとっての)新事実が続出で、「読んで良かった」と思わせてくれる快著であった。
『土の文明史』も(僕にとっての)新事実が続出の本で、土壌から歴史を解釈するという斬新さが目を引く。しかもそれが大きな説得力を持つ。人為は決して自然から離れることができないということを思い知らされると同時に、土壌が環境問題の基本中の基本であることがよくわかる。現代人が知っておくべき事実だという思いを新たにした。いずれ世界中のドキュメンタリーやテレビ番組などで頻繁に取り上げられるようになるテーマだと思う。
『一刀一絵 江戸の色彩を現代に甦らせた男』は、版画家である著者、立原位貫の半生と美術作品について書いた自伝的な著だが、(こともなげに達成している)その業績がすごい上、芸術に対する彼の真摯なアプローチが文章から伝わってくる。人間性があふれ出た著書で、読んでいて気分が高揚するようであった。
番外の『地を這う魚 ひでおの青春日記』は、マンガ家、吾妻ひでおの自伝的なマンガだが、表現方法が特異で、しかも完成度も非常に高い。マンガ家の青春記は面白いものが多いが、単にノスタルジーに終わらず、未来への情熱や青春のほろ苦さも伝わってくる高い水準のマンガである。著者の名著『失踪日記』にひけをとらない秀作であった。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5
1.
『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』2.
『家族と側近が語る周恩来』(1)〜
(4)3.
『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす』4.
『独立時計師たちの小宇宙』5.
『バイオリンの聖地クレモナへ』番外:
『クジラと生きる』 『秩父山中 花のあとさき ムツばあさんの秋』も、映画
『エンディングノート』同様、一人の市井の人間の人生を照らし出すドキュメンタリーである。過疎化が進む秩父山中に住み続け、昔ながらの生活を頑なに守っている女性、小林ムツさんを追いかける。日本の農村に古くから伝わる生活様式や市民のメンタリティといったものが、ムツさんを通じて巧みに表現されていて、優れたドキュメンタリーになっている。
『家族と側近が語る周恩来』も一人の人間の人生を照らし出すドキュメンタリーではあるが、こちらは近代史に名を残す中国の政治家である。共産党革命や文化大革命を経験し、米国や日本との国交樹立に奔走した周恩来について、周辺の人物の証言によりその人物像を描き出す。激動の近代中国の渦中にいて、命の危険にも何度もさらされた政治家の意外な人物像まで見えてくる。また一人の人間の歴史から激動の近代史を照らし出すという手法も効果を上げていた。4回シリーズだったが、どの回も密度が濃かった。
『100マイルチャレンジ 地元の食材で暮らす』は、食のあり方を問い直すドキュメンタリー。身辺100マイルで生産された食品だけで100日間生活してみようという試み(100マイルチャレンジ)に挑戦する数家族に密着する。現代のわれわれの食生活はきわめてグローバル化している。この番組で取り上げられる「100マイルチャレンジ」は、食をローカルなものに戻そうとする試みなんだが、実際にやってみようとすると、結果的に食べる物がほとんどなくなってしまうのだ。どれほど食品を海外に依存しているかがわかる(ちなみにこれはカナダの事例)。現代の生活で、食を身近にするというただそれだけのことがどれほど困難であるかがよくわかる。同時に、食を身近にするという試みがどれほど人々の健康にも生活にも良いか、そして人間性の回復にもつながるかが表現される。
『独立時計師たちの小宇宙』は、スイスのフリーランスの時計職人を追うドキュメンタリー。小さな腕時計の中に複雑な小宇宙を詰め込む人々の技術がカメラで見事に捉えられる。ある意味正攻法のドキュメンタリーで、密度が非常に濃く、職人技の崇高さまで垣間見られる。アナログ腕時計の周辺についてまったく知らなかったこともあって、こういう世界が存在するということを初めて知った。
『バイオリンの聖地クレモナへ』は、一人のヴァイオリニストが、イタリア・クレモナのヴァイオリン製作職人を訪ねるという紀行番組。こちらもまったく知らない世界が扱われており、しかもイタリアで修行しているヴァイオリン製作家に若い日本人がいるということも知らなかったし、その中の一人がチャイコフスキーコンクールのヴァイオリン製作部門で一位を受賞していたということも知らなかった。そもそもチャイコフスキーコンクールに楽器製作部門があることすら知らなかった。番組も結構ドラマチックな展開になっていて、構成が非常にうまかった。案内役のヴァイオリニスト、川久保賜紀の驚きや喜びまでが画面を通じて伝わってきた。
番外の『クジラと生きる』はNHKスペシャルだが、映画『ザ・コーヴ』に対するNHK側の反論である。主張が非常に明確で、感情的なクジラ保護論に一石を投じるドキュメンタリーである。『ザ・コーヴ』撮影の裏側も見せていて、世論をミスリードする方法が暴かれる。そういう面もわかって面白かった。NHKがこういった意欲的な番組を作ったことも評価したいと思う。
参考:
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』