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竹林軒出張所

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『秋刀魚の味』(映画)

秋刀魚の味(1962年・松竹)
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
撮影:厚田雄春
美術:浜田辰雄
音楽:斎藤高順
出演:笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、三上真一郎、中村伸郎、東野英治郎、杉村春子、北竜二、岸田今日子、吉田輝雄、加東大介

b0189364_9134228.jpg 今回で見るのは5、6回目で、今さらという感じではあるが、見るたびに新しい発見があって面白い。今回は特に、小津映画の特徴であるローアングルに目が行った。今まであまり意識したことがなかったのにローアングルにものすごく心地よさを感じた。
 登場人物の魅力、上品なユーモア、端正な映像、飄逸な音楽とどれをとっても名品で、まさしく小津演出の集大成と言ってよい映画で、逸品である。この映画の4年前に作られた『彼岸花』と非常に似たモチーフと演出で、リメイクに近いが、小津にとってリメイクしたい題材だったんだろうかとも思う。『彼岸花』も素晴らしい映画ではあるが、完成度はそれを上回っている。
 さて今回はNHK-BSで放送されたもの(『山田洋次監督が選んだ日本の名作100本』シリーズ)を見たんだが、映画の後に、山田洋次や岩下志麻のインタビューが追加されていてなかなか興味深い話をしていた。山田洋次は当時松竹に入社したてだったこともあり、小津安二郎といえば権威の象徴みたいな印象しかなく、廊下ですれ違うと「なんだこのやろう、小津安二郎!」と心の中で叫ぶような存在だったらしい。一方岩下志麻は、『秋刀魚の味』撮影時のエピソードについて披露していた。本作の終わり近くに2階で物思うシーンがあるが、そのシーンで巻き尺をもてあそぶ場面がある。その際、監督に指示されたのが、左手に3回巻いてからほどき10秒して右手で何回……というような指示だったという。で、岩下志麻はそれを頭の中で反復し実際に手を動かすという作業だけに集中してしまったらしく、結局80回ほど撮り直しさせられたというような面白いエピソードが紹介されていた。このシーンは心ここにあらずという場面だが、それを考えると、岩下志麻が「左手で何回」などと回数の再現に集中するのは理に適っているとも言える。つまり演出側は「心ここにあらず」を再現したかったのではないかということだ。おそらく小津はその辺まで考えて要求していたんではないか、要は回数なんかあまり関係なかったんではないか……と今回このシーンを見ながら思ったのだ。実際手に巻くのが何回でもあまり関係ないと思えるシーンであった。
 ともかく、見るたびに心地良い気分にさせてくれる映画で、ほっこりとしながら最後に少し苦みが残る「秋刀魚の味」みたいな作品である。ごちそうさまでした。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『小津安二郎・没後50年 隠された視線(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえる名作(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『絢爛たる影絵 小津安二郎(本)』
竹林軒出張所『青春放課後(ドラマ)』
by chikurinken | 2011-12-15 09:16 | 映画
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