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竹林軒出張所

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『浮雲』(映画)

浮雲(1955年・東宝)
監督:成瀬巳喜男
原作:林芙美子
脚本:水木洋子
出演:高峰秀子、森雅之、中北千枝子、岡田茉莉子、山形勲、加東大介

『浮雲』(映画)_b0189364_9103331.jpg ミキちゃんデコちゃん(成瀬巳喜男と高峰秀子のこと)シリーズの最後は、かれらの最高傑作といわれる『浮雲』。
 この映画、25年前に見ていてそのときはあまりの湿っぽさに辟易したが、それは今回も同様。あまりに湿っぽく、まるで屋久島の長雨(この映画に出てくる)のようだ。見ていて耐えられないほどで、そのために「成瀬己喜男の過剰なセンチメンタリズムがイヤ」という先入観が僕の中にできてしまったのだ。ましかし、成瀬映画が何もかもこういった息苦しさを持っているわけではないことはその後わかったが。
 端的に言ってしまうと、男と戦争で人生を狂わされた女の話ということになるか。画家マリー・ローランサンの詩に「鎮静剤」というのがあって、

悲しい女よりもっと哀れなのは不幸な女です。
不幸な女よりもっと哀れなのは病気の女です。
病気の女よりもっと哀れなのは捨てられた女です。
捨てられた女よりもっと哀れなのはよるべない女です。


と続くんだが、それを地でいくような映画である。登場する主人公は哀れな女だが、しかし哀れさを感じるというよりはむしろ見ていて疲れる。とにかく女と男が近付いたり離れたりで、男女関係の一番鬱陶しい部分が次から次へと突きつけられて、本当に辟易する。特に高峰秀子の投げやりな女性の演技(演技自体が投げやりなのではなく、演じている対象が投げやりなのね)は、自暴自棄さが非常に不快である。高峰秀子自体は好演と言っていいと思うがともかく重すぎる。演出や美術などもよくできていてまったく破綻はないが、とても疲れる映画になってしまった。逆にそういう面が優れていると言えるのかも知れないが、精神的に余裕があるときでないとちょっとつらい映画であることは間違いない。だから公開時(終戦から10年後)、焼け跡のつらい記憶もまだ残っていたはずなのに評価が高かったというのが意外とも思える。10年経っていたせいで人々の間に余裕が生まれていたと考えることもできるが。
1955年度キネマ旬報ベストテン第1位、監督賞、主演女優賞、主演男優賞受賞作
★★★

参考:
竹林軒出張所『稲妻(映画)』
竹林軒出張所『流れる(映画)』
竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』
竹林軒出張所『乱れる(映画)』
竹林軒出張所『めし』(映画)
竹林軒出張所『放浪記(映画)』
竹林軒出張所『あらくれ(映画)』
竹林軒出張所『このところ高峰秀子映画が多いことについての弁明』
by chikurinken | 2011-11-26 09:11 | 映画
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