放浪記
(1962年・宝塚映画)
監督:成瀬巳喜男
原作:林芙美子
脚本:井手俊郎、田中澄江
音楽:古関裕而
出演:高峰秀子、田中絹代、宝田明、加東大介、小林桂樹、草笛光子、仲谷昇、伊藤雄之助

林芙美子の自伝小説『放浪記』の三度目の映画化。61年に菊田一夫脚本・演出、森光子主演の舞台が始まっていて、この映画では菊田一夫の戯曲版も原作として扱われているため、舞台の要素も入っているのかも知れない。原作も読んでいない上、舞台も見たことがないので、よくわからない。
本作は『浮雲』の成瀬巳喜男・高峰秀子コンビで、しかもキャストも高峰秀子と過去に共演している人が多く、成瀬・高峰色が強い映画だと言える。それまでに2回映画化されている人気作品であることを考えても、成瀬巳喜男の味付けがこの映画の魅力になっているのかとも思うが、そこら辺は正直言ってよく分からない。ただ演出は非常に堅実で、『放浪記』の定番と位置付けても良いんじゃないかとも思う。また主演の高峰秀子は、作品公開当時、林芙美子に似ていないと言うことでマスコミにバッシングされたらしいが、非常に好演しており、ちょっと突き抜けた感じがあって、それまでの高峰作品と違った魅力を発揮している。
ストーリーは、林芙美子の名前が世に出るまでの底辺時代を扱ったものであるため、自身の生活が苦しいときにこの映画を見るとちょっとやるせないかも知れない。当然のことながら、その後林芙美子は文筆家として成り上がっていくので結果的にはサクセス・ストーリーになるが、底辺時代はちょっと救いようのない感じで、本当に救いがなくやるせないのである。こういうのを扱わせると成瀬巳喜男はさすがである。それでまたクズ男が次々に出てくるあたりも『浮雲』や
『稲妻』(共に林芙美子原作、成瀬巳喜男監督、高峰秀子主演)を彷彿させ、成瀬風の味わいが生きている。成り上がったのがせめてもの救いかとも思うが、それについてもあまり達成感が伴わないのが林芙美子的と言えるんだろうか。
映画では、原作の『放浪記』後の時代も付け足され、作家になって大成した「フミ子」も出てくる。成功してはいるが、これもあまり気分の良いものではなく、爽快感が残るというような映画ではないが、それも成瀬巳喜男らしいと言えば言える。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『浮雲(映画)』竹林軒出張所『稲妻(映画)』竹林軒出張所『流れる(映画)』竹林軒出張所『乱れる(映画)』竹林軒出張所『女が階段を上る時(映画)』竹林軒出張所『めし』(映画)竹林軒出張所『あらくれ(映画)』竹林軒出張所『カルメン故郷に帰る(映画)』竹林軒出張所『無法松の一生(映画)』竹林軒出張所『女の園(映画)』竹林軒出張所『雁(映画)』竹林軒出張所『このところ高峰秀子映画が多いことについての弁明』