映画『切腹』がリメイクされる(三池崇史監督『一命』)という話を聞いて、ついにリメイクの風潮もここまで来たかと思う。
『切腹』と言えば、小林正樹監督、橋本忍脚本、武満徹音楽という超豪華スタッフによる1962年の松竹映画で、キャストも仲代達矢、岩下志麻、丹波哲郎、石浜朗と一流揃い。カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞するなど評価も高かった。
中でも橋本忍の脚本は特筆もので、橋本忍と言えば戦後日本映画界のトップに君臨すると言ってもよいほどの優れた脚本家だが、その彼の作品群の中でも最上位にランクされるのではないかという、素晴らしい脚本であった。通常、映画脚本でむやみに回想形式を使うのは御法度なのだが、この映画の回想シーンは、そんじょそこいらの回想形式ではなく、「回想」を再定義するくらいの巧みな技で、シナリオの教科書・見本と言っても差し支えないほどである。しかもそれを100%活かしきった、地味だが骨のある演出と、緊迫感を盛り上げる音楽で、この映画は日本映画界の至宝と言っていいほどの傑作になった。

だからそれを思うと、何もあらためて作り直す必要はないんじゃないかと思うのだ。どうあがいてもこれ以上のものは作れないよと思う。原作がよくて映画がダメな作品を持ち出すとかするんならまだしも、よりによってこんなのをリメイクするなんてその意図がわからない。なんでも製作サイドが三池監督に持ち込んだ企画らしく、三池監督は、持ち込まれた企画はすべて受けるという、職人に徹したなかなか見上げた監督ではあるが、持ち込まれる企画がことごとくろくでもない。『ヤッターマン』、『十三人の刺客』、『忍たま乱太郎』、『愛と誠』……いくら何でもこんなもん受けるなよと思う。そういったわけで映画のデキ云々より、こういったくだらない企画に憤りを覚えるのだな。
そういや黒澤明の
『椿三十郎』や
『隠し砦』までリメイクが作られたんだったな。果たして織田裕二や阿部寛が(あの全盛期の)三船敏郎に近づけたのか、見るまでもないような気もするが、リメイクする意味がまったく見いだせない映画群の代表と言える。

リメイクばやりはなにも日本映画界だけではなく、ハリウッドでもそうだし、日本のテレビ・ドラマにも当てはまる。特に最近の日本テレビのドラマは何なんだと思う。『怪物くん』に『妖怪人間ベム』と来る。アニメを実写化したという話だが、これなんか意味がわからないどころか、わけがわからない。何を狙っているのかすら見えてこず、何でもかんでもリメイクしたら良いってもんじゃね-ぞと悪態の一つもつきたくなる。貧困な企画力の日本代表、それが日本テレビである。こんなくだらないドラマを作るくらいだったら、過去のドラマを再放送したら良いのだ。こんなドラマ作ってもゴミを増やしているだけのような気さえする。

そうそう、最後に付け加えておくが、ここに取り上げたリメイク作品、僕はどれも見ていないので、実はものすごくデキが良かったりするのかも知れない。おそらくそんなことはないとは思うが、だから今回の批判は「何でもリメイク」の風潮に対してのもので、個々の作品に対してのものではないということをお断りしておく。これはけっして言い訳ではない。
参考:
竹林軒出張所『切腹(映画)』竹林軒出張所『用心棒(映画)』竹林軒出張所『椿三十郎(映画)』竹林軒出張所『隠し砦の三悪人(映画)』竹林軒出張所『ポセイドン・アドベンチャー(映画)』竹林軒『放送時評:新『赤い運命』の島崎直子役の女優』5年前の記述だが、ここでもリバイバル(リメイク)の風潮を嘆いていた……。5年経っても進歩がないとも言えるが、ま、それは放送界も同じということ……