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竹林軒出張所

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『利休』(映画)

利休(1989年・勅使河原プロダクション)
監督:勅使河原宏
原作:野上彌生子
脚本:赤瀬川原平、勅使河原宏
音楽:武満徹
撮影:森田富士郎
美術:西岡善信、重田重盛
出演:三國連太郎、山崎努、三田佳子、田村亮、坂東八十助、井川比佐志、岸田今日子、北林谷栄、山口小夜子

『利休』(映画)_b0189364_91311.jpg 1989年9月に公開された映画だが、実は同じ頃に『千利休 本覺坊遺文』という映画が公開されており、僕はこっちの『利休』を見たいと思っていたんだが、結局『本覺坊遺文』のみを見ることになった。『利休』の公開期間が短かったことと『本覺坊遺文』が当時の住まいのすぐそばにあった映画館で公開されたことがその理由である。だが『本覺坊遺文』についてはあまり感じるところがなかった。そういうわけで、『利休』は随分長い間、気になっていた映画である。今回NHKで放送されたため見ることにした。実はDVDは出ていない。今出まわっているのは中古のVHSのみなので、VHSを探すか放送されるのを待つかどちらかしか見るチャンスはない。
 さて、その内容であるが、期待に違わず、非常に豪華で、細部まで注意が払われた、桐箱に入ったような素晴らしい映画であった。豪華なのはスタッフやキャストのラインナップを見てもわかる。監督は華道の家元でもある勅使河原宏、脚本に芥川賞作家、赤瀬川源平を起用し、武満徹の音楽が全編を流れる。他にも上には書いていないが、衣装のワダエミ(アカデミー賞衣装デザイン賞の受賞歴あり)、美術の西岡善信など、この時代の最高レベルのスタッフが揃っている。キャストも名優と呼ばれる人に加え、松本幸四郎(織田信長)、中村吉右衛門(徳川家康)、中村橋之助(細川忠興)など歌舞伎界からもゲスト的に大挙出演している(子ども時代の中村獅童もちょい役で出ている)。どれほど豪華かがおわかりいただけよう。
 芸術を扱った映画を作る場合、映画の中で語られる芸術作品と比べて小道具や大道具が見劣りしてしまうということがよくある……というより、それが常である。天才ピアニストを地で演じられる役者などいようはずもなく、そのあたりはうまく本物のピアニストで吹き替えたりするんだが、そこらをうまくやらないとどうしても安っぽいものになってしまう。新進の天才画家が描いたという絵が画面に登場して、それがつまらないものだったりすると、とたんに白けてしまって苦笑すら浮かんでしまうというもの。だから芸術を扱う映画の場合、どの程度リアルさを追求できるかというのが大きなポイントで、結果的に作り手の芸術的な感性や素養に依拠することになる。したがって千利休を扱うとなると、それなりのものを見せてもらわないと納得しないのだ、うるさ型の客としては。その点この映画は素晴らしいと言わざるを得ない。どの画面も細部に至るまで緊張感がみなぎっており、利休の芸術が再現されているかのようである。小道具に使われている茶器は、本物の名品を借りてきているという話(NHKの解説で言っていた)で、そこらにも作り手のこだわりが感じられる。
 もちろんストーリーも一流で、美学に殉じようとする利休の生き様が巧みに表現されており、利休周辺に漂う謎の部分を見事に吹き払って、まことに明快である。彼の逡巡を引き立てる周囲の人々も魅力的である。勅使河原宏という人はユニークな作品を作ってきた映画監督であるが、この作品は彼にとっても最高の部類に入る名品と言うことができるだろう。DVDが出ていないのがはなはだ残念である。
モントリオール世界映画祭最優秀芸術貢献賞
ベルリン映画祭フォーラム連盟賞受賞作
★★★★

注:本稿執筆時点では上記の通りDVDがなかったが、その後2012年にDVD化されている。

参考:
竹林軒出張所『豪姫(映画)』
竹林軒出張所『砂の女(映画)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』
竹林軒出張所『おとし穴(映画)』
by chikurinken | 2011-10-05 09:02 | 映画
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