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竹林軒出張所

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『家族と側近が語る周恩来』(1)(2)(ドキュメンタリー)

家族と側近が語る周恩来(2011年・NHK)
第一章 試練〜新国家を背負って〜
第二章 苦渋〜文革の嵐の中で〜
NHK-BS1

『家族と側近が語る周恩来』(1)(2)(ドキュメンタリー)_b0189364_8154685.jpg 近代中国の発展を支えた政治家、周恩来。僕の中では、日中共同声明のときに田中角栄とがっちりと握手したのが非常に印象的で、「大人物の政治家」という印象がある。また、アメリカの政治家(もしかしたらジャーナリストだったかも知れない)が書いた周恩来についての記述(会食時の印象)をかつて読んだことがあり、そこでも「周囲に気を配ることのできる大人物」という描かれ方だったように記憶している。最近読んだ本では、毛沢東の補佐役として、暴走する毛沢東との間でバランスを取る役割を果たしてきたという描かれ方だった。共通しているのは、周恩来についてあまり悪く言う人はいないということである(少なくとも僕の知る範囲では)。
 このドキュメンタリーは、周恩来の家族と側近へのインタビューをつなぎ合わせ、周恩来の人物像を明らかにしようという試みである。家族と側近だけに、あまり悪し様に言われることはないだろうが、しかしそれでも周恩来の人物像は垣間見えてくるのではないかと思う。4回シリーズのドキュメンタリーで、NHKが製作しているため多分に日本から見た中国近代史という視点になる。

 第一章は、周恩来の若い頃から大躍進時代までである。周恩来夫妻には子どもがいなかったため、貧しい公務員だった弟の子どもたち(つまり甥と姪)を引き取って首相官邸で育てていたらしい。生活はあくまで質素であり、使わない電気が点いていれば消して回るような人だったらしい。私腹を一切肥やすことなく、実務家として仕事中心の生活を送っていたという姿が浮き彫りにされていく。特に第一章では、実務家としての側面が強調されており、国内産業発展のため、地方に実際に赴き現状を視察することを心がけていたという話が紹介される。実情をしっかり把握していたため、達成目標も堅実なものにするよう努めていたという。1950年代中頃の発展は、彼のこういった姿勢に支えられていたという。だが、その後、毛沢東が「大躍進」と称して無理な目標を設定し、地方に対して過剰な要求をしたため、結局数字の上でつじつまを合わせるといういかにも官僚的な対応が行われ、そのしわ寄せとして工業・農業が壊滅的な打撃を受けて、大飢饉を発生させることになる。その後60年代になり、その反省として毛沢東が一線を退き、周恩来や劉少奇、鄧小平らの実務家が、(今で言う)改革開放路線を取ることになる。そのためもあり、周恩来も食事を取ることもできないほど、多忙な生活を余儀なくされる。
 第二章では、毛沢東の巻き返しとして引き起こされた文化大革命によって、国内が混乱していく中、周恩来がどのように処世したかを描く。毛沢東が「造反有理」というキャッチフレーズで、反逆する学生たち(紅衛兵)を煽り、妻の江青を利用して、穏健派の政治家を粛正していく。ついには当時国家主席だった劉少奇まで逮捕させるほどで、当然のことながら周恩来の周辺も危なくなってくる。暴走に歯止めをかける意味でも、表面上は毛沢東支持を訴えながら、紅衛兵たちを(孫に対するように)我慢強く説得していた周恩来であるが、やがて実弟が紅衛兵に狙われる。結局、周恩来自身が弟の逮捕命令を出し、軍の施設に収監するんだが、実はこうすることで紅衛兵の暴走から弟を守っていたということが側近や甥姪の口から明かされる。同様に、次々に逮捕されていく実務派の政治家(かつての同僚)たちも、似たような方法で保護していたという。荒れ狂う嵐の中で、何とか活路を見出そうと身を潜める実務家という姿が明らかになっていく。紅衛兵の破壊活動により、産業は後退し文化財は破壊されていくが、そんな中、それへの対処も含め、当時首相を務めていた周恩来は、これまで以上に仕事に忙殺されることになる。
 ともかく、周恩来の実務家としての才能やバランス感覚、人物の大きさばかりが浮き彫りにされるドキュメンタリーで、見るこちら側の感覚(周恩来に対する印象)とも近いものがあるが、第二章の時点で「活き延びることこそ重要である」ということが強調されている。かつて『シリーズ毛沢東』(竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』参照)を見たときに、「文化大革命でアジテーション演説をぶつ周恩来」の図に違和感を持ったが、しかしこういう状況であればそれも致し方ないと思う。むしろ、自分の身辺が危険になっている中でも、バランス感覚を保ちながら破壊活動の事後処理に励んでいたという、そういう面こそ十分評価に値すると思う。大人物、周恩来の面目躍如である。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『家族と側近が語る周恩来 (3)(4)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『シリーズ毛沢東(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『文化大革命50年 知られざる“負の連鎖”(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日中2000年 戦火を越えて(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2011-08-22 08:19 | ドキュメンタリー
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