思い出トランプ 前編・後編(1990年・TBS)
演出:久世光彦
原作:向田邦子
脚本:寺内小春
出演:田中裕子、小林薫、加藤治子、洞口依子、岸部一徳、内大輔
これも向田邦子のドラマで、「向田邦子×久世光彦スペシャルドラマ傑作選」というDVDシリーズの一本。向田邦子の短編集『思い出トランプ』から「大根の月」、「だらだら坂」、「男眉」の3編をまとめて脚色したドラマ。3編をまとめたドラマだが、そういうものにつきもののぎこちなさはなく、知らなければ1本の話だと思い込んでしまいそうである。僕自身、原作は読んでいないので、どの話のどの部分がどのように取り込まれているかはよくわからない。唯一柴門ふみのマンガ(
『花の名前 向田邦子漫画館』)で読んだ「だらだら坂」は知っているので、どういう感じでこのドラマに取り込まれたかというパターンはおおむね想像がつく。おそらくではあるが、「大根の月」をメインにして、そこに「だらだら坂」、「男眉」のエピソードを盛り込んだんではあるまいか。ともかく、ストーリーとしては破綻することなく、非常にうまくまとめられている。
向田作品に見られる女性の視線の厳しさや怖さもふんだんに盛り込まれる。こういった心情表現は田中裕子のナレーションで表現されるが、一方で男の視線も小林薫のナレーションで加えられる。だが男目線のナレーションは、少し奇を衒った印象があり、男の感性からは少し遠いと感じた。向田邦子も男のものの考え方はあまり把握できていなかったのか。そういうこともあって、ドラマでは男のナレーションは不要だったように思う。
キャストはどれも好演しており、久世演出が光る。特に加藤治子は、こういった嫌な姑をやらせたら天下一品で、まことに不快な姑-夫関係がそこに描き出されている。また、向田作品らしく随所に食事シーンが出てくる。『寺内貫太郎一家』の時代から一貫した傾向だが、良いのか悪いのかは正直よくわからない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(ドラマ)』竹林軒出張所『あ・うん (1)〜(4)(ドラマ)』竹林軒出張所『寺内貫太郎一家 (22)(ドラマ)』竹林軒出張所『花の名前 向田邦子漫画館(本)』