ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『プルトニウムの恐怖』(本)

『プルトニウムの恐怖』(本)_b0189364_8194645.jpgプルトニウムの恐怖
高木仁三郎著
岩波新書

 1981年初版の本、ということは初版からすでに30年過ぎている。僕が前に読んだのはチェルノブイリ事故以後だったと思うので、87年くらいか。今回あらためて本棚から取り出してみたが、付箋と書き込みが一杯でビックリ。しかし今回読んでみてその理由もよくわかった。とにかく密度が濃く内容が豊富な本で、勉強させていただいたという感じが強いのである。
 しかも、30年後の今読んでも内容はまったく古くなく、現在の時点から30年前に戻って内容を検討しているかのような錯覚も覚える。ちょっとタイムスリップしたみたいな感覚だが、チェルノブイリの事故も福島原発の事故も、そしてもんじゅのナトリウム漏れ事故も、ことごとく想定されているかのような記述に驚く。すでに想定されていたことにもかかわらず、何度も何度も失態を繰り返す原子力行政にもあきれかえってしまうが、いい加減ここいらで立ち止まって考えてみたらどうだとも思う。
 今回この本を再読することにしたのは、先日見たドキュメンタリー『終わらない悪夢』(竹林軒出張所『終わらない悪夢 前編、後編(ドキュメンタリー)』を参照)で、放射性物質(ウラン、プルトニウム、ストロンチウムなど)に関する僕の知識が著しく欠落していることを痛感したためである。本書には、ウランより重い人工の「超ウラン元素」がどのように生成されるかについて詳細な記述があって、おかげで大分理解できた(ような気がしている)。『終わらない悪夢』の関連で言えば、あのドキュメンタリーで僕が初めて知ったと思っていた「アメリカ・ハンフォード核施設の放射性物質漏洩」や「ロシア・マヤーク核施設の爆発事故」などについても本書に記述されていた(つまり実際にはあの番組で初めて知ったわけではなかったことになる)。他にもラ・アーグ核燃料再処理工場の周辺領域の汚染についても触れられていただけでなく、書籍『原子力帝国』(竹林軒出張所『原発を知るための本 5冊+1冊』で紹介したもの)やカレン・シルクウッド事件(『シルクウッド』というタイトルで映画化されている)まで紹介されていて、とにかく原子力に関連するありとあらゆる問題が網羅的に記述されているという印象である。今読んでも、その内容の豊富さと正確さに驚く。
 本書では特に、高速増殖炉(日本の「もんじゅ」など)の危険性と非現実性に多くのページを割いているが、実際高速増殖炉の計画は(日本のもんじゅを含め)世界中で頓挫しており、著者の先見の明を感じさせる。だがそのように危険なものでありながら、いまだにもんじゅの計画を推進しようとしている人々がいることも知っておく必要がある。今まで莫大なエネルギーと金を投入したので取り返さなければいけないとでも思っているのかそのあたりはわからない。何やら大負けしたギャンブラーが、無くした資金を取り戻すべく、すべての財産をかけて大ばくちを打つという構図に似ているが、この場合、担保に入るのは本人たちの財産ではなく住民の生活なのである。とにかく恐ろしいことが進められていることを思い知らされる一冊であった。高木仁三郎の集大成と言ってもいいような快著である。
 また、原子力に代わる新しい電気エネルギーの議論についても、欲望を限りなく増殖させる方向ではなく、身の丈にあった生活を模索することが重要なのではないかという、ある種哲学的な論考もある。このあたりは松下竜一の暗闇の思想(竹林軒出張所『原発を知るための本 5冊+1冊』を参照)を彷彿とさせるもので、大いに共感できるものである。
『プルトニウムの恐怖』(本)_b0189364_8213024.jpg
追記:出版されてから時間が経っていることもあり、今回読むにあたってその後の事故についていろいろ調べながら読んだりしたため、大変なエネルギーを投入することになって、頭がものすごく疲れた。内容的にはやや難しいかもしれない(と言っても僕のような文系の人間でもスラスラ読める)。
★★★★
by chikurinken | 2011-06-20 08:26 |
<< 『地下室のメロディー』(映画) 『忍ぶ川』(映画) >>