北斎漫画を読む 江戸の庶民が熱狂した笑い
有泉豊明著
里文出版
葛飾北斎が残した絵画集(?)『北斎漫画』で描かれている事物について解題した解説書。
著者は、専門の研究者ではなく開業医だそうで、どういういきさつの本かわからない。もしかしたら自費出版本かも知れない。とは言え、内容はなかなか示唆に富んでおり、役に立つ。
僕など葛飾北斎、ひいては『北斎漫画』のファンで、初編から十五編まですべて再現された本(『北斎漫画』は全十五編)を持っているが、内容の意味や由来についてはよくわからないままでいた。絵やデッサンに惹かれて買ったのであって、内容の面白さについては皆目見当がつかなかった……というよりまったくもって面白いと思わなかった。むしろ『北斎漫画』より『北斎の絵手本』なんかの方が面白いと思ったくらいである。そういうわけで、初編がなぜに爺婆の絵で始まって滝の絵で終わっているかもさっぱりわからず、わかりやすい箇所のみ楽しむという、そういった見方をしていた。この本によると、最初に載っている爺婆の絵は、おめでたい祝福の能「高砂」からの引用だということで、最後の滝の絵(田の字型に4つ配置)は、「めで滝」ひいては「めで田喜」の洒落だそうだ。つまるところ、『北斎漫画』はめでたいもの尽くしで、万民快楽(けらく)天下泰平、豊年・豊作、和合などをユーモアやウィットを交えて描いているということである。なかなか含蓄に富むが、さすがにすべての絵の解題というわけにいかず、部分部分のピックアップ(編頭と編尾はすべて)で終わっている。それでも大変役に立ったことには変わりない。
一部深読みが過ぎるのではないかと思う箇所もあったが、本当のところはわからない。またところどころ妙な言い回しが残っており、まだまだ編集の余地が残っている。現状、初稿みたいな状態で、作りの甘さは否めない。
★★★参考:
竹林軒出張所『北斎漫画(映画)』竹林軒出張所『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜(映画)』竹林軒出張所『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜 (1)(ドラマ)』竹林軒出張所『広重ぶるう(ドラマ)』