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竹林軒出張所

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眠れない夜iPodを抱えて

 最近、生活リズムが狂ってきたせいか、夜なかなか寝付かないことが多くなった。
 実は20年ほど前もそういうことがあって、そのときは就寝時に落語のカセットを聴くようにしてこの問題を克服したが、そのことをふと思い出した。なかなか寝付かないときは、大抵あれこれ思考を巡らしているせいで頭が冴え渡ってきて思考がさらに進むという悪循環が発生するが、落語などを聴いたりすると、当然そちらに集中することになって思考が進まなくなる。意外に効果てきめんなのだ。
眠れない夜iPodを抱えて_b0189364_9292784.jpg ということで、寝る前に、五代目古今亭志ん生の落語を聴くことにした。古今亭志ん生は僕のもっともお気に入りの噺家で、今の土地に引っ越すときに、CD全集40枚のうち30枚まとめて買ったこともあるほど。当時志ん生のリバイバルCDも今ほど出回っていなかったため、ポニーキャニオンからCD全集40枚が出されたときはちょっとした衝撃だった。CD版の復刻(レコードからのCD化)作業などは、当然ながら売れ筋から行われるので、一般的には落語みたいなマイナーな線は後回しになる。その潮流がやっと落語まで及んできたという時代だったのかも知れない。この全集は、わりと早く品切れになったようだが、その後、志ん生をはじめ、さまざまな落語CDがたてつづけに発売されるようになって、今では図書館にも大量に収められているほどで、当初のような珍しさはない。
 志ん生の落語は、ラジオ放送用の音源がかなり残っているためか結構いろいろな演目のものが出回っているが、内容はそれこそ玉石混淆で、良いものもあればダメなものもある。特に志ん生の場合、晩年(昭和36年)に一度倒れて入院し、その後復帰したものの、かつてのような流れるような話芸は影を潜め、ほとんど別人のようになってしまった。そのため、昭和37年以降の志ん生の演目は資料的な価値以外あまりないと断言できる。だから買う際には昭和37年以降のものには手を出さないのが良い。また志ん生は、特に観客の影響をとても受けるタイプのようで、同じ演目であっても録音時の観客の状況によってグレードがかなり違う。だから志ん生の十八番だと思って買ってしまってガッカリするということもあるのだ。
 僕もそういうことを随分重ねて(買っただけでなく図書館でも借りて聴き比べしたりしている)、「火焔太鼓」はコレ、「妾馬」はコレみたいな、自分にとっての定番というものを見つけている。そういう厳選志ん生選集というものをiPod Classicに入れている。締めて46題。六代目三遊亭円生(名人だと僕が思っている人)の演目が4題であることを考えると、僕の志ん生への入れ込みようがわかろうというもの。
 こういういきさつで、最近は寝るときにiPodを用意し、スリープタイマーを60分にセットして聴いている。つまりそのまま寝込んでしまっても60分経ったら自動的に停止するのだが、実際はうつらうつらしたときに自分でiPodを止めており、実質的には20〜30分で止まっていることになる。寝入りはこれまでと比べてはるかに良くなり、同時に久しぶりに志ん生を楽しむことができるという一挙両得の解決策なのだった。一番の問題は、1本の題目の途中で眠ってしまうことが多く、通しで聴けないということと、眠る前の思索(結構楽しみでもあったのだ)ができなくなったということだが、それは起きている昼間にやることにする。眠れないというのはつらいものだし。

古今亭志ん生資料集
私のお奨め演目:
火焔太鼓(1961年12月NHKライブ):志ん生の十八番。躍動する志ん生。『NHK落語名人選1 五代目古今亭志ん生』に収録されているもの。
妾馬(1957年1月ラジオ京都放送分 - 川崎演芸場):破天荒な志ん生の面目躍如。
弥次郎(1956年NHKライブ):奇想天外な志ん生。『決定盤 落語十八番集 その三』に収録。
抜け雀(データなし):『NHK落語名人選31』収録のもの。

古今亭志ん生の映像:
眠れない夜iPodを抱えて_b0189364_934782.jpg志ん生全盛期の映像は少なく、現在『風呂敷』、『おかめ団子』、『岸柳島』の3本の演目が残っているといわれている。
このうち『風呂敷』は『古典落語名作選 其の一』に、『おかめ団子』は『志ん生復活! 落語大全集 第8巻』、『岸柳島』は『志ん生復活! 落語大全集 第7巻』にそれぞれ収録されている(『志ん生復活』シリーズは現在入手困難)。これらの映像はYouTubeでも見ることができる。YouTubeには他にも『鰍沢』があったが、これは倒れた後のものでロレツが回っていない。また他にも数々の映像がアップされていたが、どれも静止画付きの音声だけのものだった。
高座以外では、『銀座カンカン娘』という映画に登場し演目もいくらか語っているが、こちらは高座とは別物で、落語として見るのはいかがなものかというような代物である。

参考:
竹林軒出張所『銀座カンカン娘(映画)』
竹林軒出張所『カラーで蘇る古今亭志ん生(放送)』
竹林軒出張所『円生と志ん生(演劇)』
竹林軒「放送時評:8代目桂文楽のライブ映像」
竹林軒出張所『怪談 牡丹燈籠(本)』

by chikurinken | 2011-06-15 09:38 | モノ
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