鳥帰る(1996年・NHK)
演出:伊豫田静弘
脚本:山田太一
出演:田中好子、杉浦直樹、香川京子、村上淳、原知佐子、丹波義隆、平田満
これも田中好子追悼企画として放送されたドラマで、脚本は山田太一。山田太一のドラマは、単発ものも含めて85年以降は大体見ているはずなんだが、このドラマはまったく記憶になかった。
問題を抱える人々が旅先で出会って、お互いの問題に少しずつ介入していきながらも、自分の人生のありようについても目覚めるという、ある種文学的な展開である。鳥取の観光名所が随所に出てくる一種のロード・ムービー(ロード・ドラマ?)だが、その辺の扱いもさりげないもので、わざとらしさは感じない。鳥取の映像も美しく、郷愁を誘う。
この当時の山田ドラマには、他人が(遠慮がちではあるが)他人の私生活に介入して、結果的におおむね良い方に落ち着くような「お節介」話が何本かあるが、このドラマもまさしくそういう内容である。人同士の繋がりが希薄になった今の社会で、人が人を求めるという自然な欲求をドラマに反映したということらしい(ドラマ放送時の山田太一のインタビューより)。「お節介」とは言っても、ドラマを見るこちら側としては是非是非介入してもらいたいという状況で、見ていて不快になるようなものではない。ただ、現代の日本社会において、こういうお節介が可能かというのは難しいところだ。とはいうもののリアリティを欠いているというようなこともない。そのあたりは山田太一の力量というか豪腕である。
主演の田中好子は、いろいろな表情を見せて好演しているが、ちょっと無理しているようなシーンもある。「あのシーンは、スーちゃんには合わないんじゃないスか、山田センセイ」と言いたくなるようなシーンもあった。
ましかし、いろいろ考えさせられるし、見ていてまったく飽きることもないしで、やはり大したもんである、山田太一は。
★★★☆追記:エンディングのタイトルバックでなかなか巧妙な演出が行われていて、一つの見所になっている。また、キャスティングも単発ドラマとしてはなかなか贅沢で、平田満と新井康弘(山田ドラマの常連)、内野聖陽がチョイ役で出ていた。
参考:
竹林軒出張所『北の夢(ドラマ) 追悼 田中好子』竹林軒出張所『秋の駅(ドラマ)』