虐待カウンセリング 〜作家 柳美里・500日の記録〜
(2011年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

柳美里という作家にはあまり良い印象を持っていなかった。以前、この作家が友人のプライバシーを小説で書き立てて、それが原因で訴訟問題になったという報道を聞いたことがあって、そういうこともあり自己中心的なイメージが僕の中にあったためである。それに加え、児童虐待という問題があまり気持ちの良いトピックでないこともあり、このドキュメンタリーを見ることには随分逡巡していた。
結局思いきって見ることにしたが、しかしこのドキュメンタリーに登場する柳美里については、正直少しビックリであった。自分が子どもを虐待してしまっていることをカミングアウトするだけでなく、虐待予防のためのカウンセリングを受けるところまで公にしているのだ。しかも自身の父や母の自分に対する虐待歴や、かれらの被虐待歴まで白日の下にさらそうとしている。これこそが作家魂というもの。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」である。そういうわけでこの作家をかなり見直すことになった。
さて、その柳美里であるが、シングルマザーであり、自分の子どもに対してかなり厳しく躾けようとしているようで、それと同時にどうしても自分を抑えられず、子どもを虐待してしまうことがあるという。自分でもこれを何とかして止めたいと思い、カウンセリングに通いはじめた。カウンセリングを担当するのはある大学の先生(東海学院大教授・長谷川博一氏)で、これまでもこういった相談者多数と向き合っている。
この先生の方法論は、虐待は前の世代から次の世代へ引き継がれるという考え方に基づいている。したがって、子どもを虐待する親は、幼少時にその親からも虐待を受けていることが多いということになる。そのため、子どもへの虐待を解消するには、自分の過去に向き合って、自分が虐待を受けたのが自分のせいではない(親のせいであり、ひいては虐待の連鎖のせい)ということに気付かなければならないというのである。
柳美里も、自分の父、母と直接対話をする(結構おっかなびっくりだった)ことで、かれらが虐待を受けていたことを知る。やがて自分の中で、自分の被虐待経験について一定の決着を付けられるようになる。
こうしてこのドキュメンタリーでは、柳美里を虐待者の1サンプルとして取り上げ、虐待のしくみと虐待解消のための方法論が紹介されていく。なかなか興味深い内容で、また同時に重い内容のドキュメンタリーであった。自分のことについてもいろいろ思いを馳せる機会になった。
★★★☆