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竹林軒出張所

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『ふくろうの河』(映画)

ふくろうの河(1961年・仏)
監督:ロベール・アンリコ
原作:アンブローズ・ビアス
脚本:ロベール・アンリコ
撮影:ジャン・ボフェティ
出演:ロジェ・ジャッケ、アン・コネリー

『ふくろうの河』(映画)_b0189364_1092929.jpg 今回DVD版の『ふくろうの河』を見るにあたり、疑問が噴出し、特に序盤わけがわからなくなった(その後、ネット検索などでいろいろなことが判明)ので、ここで少しまとめておこうと思う。

 『ふくろうの河』は、『冒険者たち』で有名なロベール・アンリコが監督した短編映画で、1962年カンヌ国際映画祭グランプリ(短編)や1963年アカデミー賞短編実写賞を受賞した隠れた名作である。実は25年ほど前に、アングラ的な色彩がある映画会でこの作品を目にして、大変衝撃を受けたのだ。そのときは確か25分程度のまさに短編映画だったように記憶していたのだが、今回借りたDVDのパッケージには上映時間93分と書かれていた。これが疑問の出発点であった。そもそも93分の映画なら短編と言えないだろう。
 とりあえず見始めたが、前に見た『ふくろうの河』とは雰囲気は似ているが、内容は全然違う。もしや前に見たものは最後の部分だけを編集したものかなどという疑問が頭の中で渦巻くが、DVDのパッケージにもなんだかはっきりした説明がない。「オリジナルは3部作で構成され、その中の表題作は、ラストが物議を醸した衝撃作!」というのが唯一の手がかりだが、見ているうちに何となく判明してきた。つまりこの映画は短編3本を並べたオムニバスで、その中の3番目が『ふくろうの河』であるということ(それぞれのエピソードは、1つの話であるかのごとく連続でつながっており、はっきりとした境界がないため、非常にわかりにくい)。
『ふくろうの河』(映画)_b0189364_10115175.jpg 見終わった後、テロップを参考にして一生懸命調べたところ、このオムニバス映画(3本まとめたもの)の原題は、強いて訳すなら『生のさなかにも』(または『いのちの半ばに』)で、1本目(約38分)のタイトルは「ものまね鳥」、2本目(約29分)は「チカモーガ」、3本目(約26分)が「ふくろうの河」となる。原作はすべて、『悪魔の辞典』でお馴染みのアンブローズ・ビアスによる短編集『In the Midst of Life』(翻訳は岩波文庫版:『いのちの半ばに』、創元推理文庫版:『生のさなかにも』など)に収録されている短編小説で、1本目と2本目は創元推理文庫版に同名の短編があり、3本目は「アウル・クリーク橋の一事件」が原作になる。「アウル・クリーク(Owl Creek)」つまり「ふくろうの河」ということになる。そういうわけでこのDVDに『ふくろうの河』というタイトルを付けるのは誤りであり、しかも誤解の元にもなる。本来ならば『生のさなかにも(「ふくろうの河」収録)』みたいなものにすべきである。またそれぞれのエピソードのタイトルをパッケージに書いておくくらいの親切さがあっても良かったと思う。ちなみに、どの話も南北戦争期のアメリカの話で、戦争の悲惨さを訴える内容である。

 こういういきさつがあって非常に混乱しながら見たが、正直「ものまね鳥」と「チカモーガ」は展開がぬるく、あまり見る必要はなかったと思う。余裕を持って見れば面白く感じたかもしれないが、そもそも3本目の「ふくろうの河」が目的で、かなりイライラして見ていたためあまり冷静な判断ができなかったこともある。
 「ふくろうの河」は先ほども言ったように今回が二度目だが、やはり内容が充実していて、まったく隙がないすばらしい短編であった。原作がかなり忠実に再現されており、畳みかけるような展開でありながら、周囲の自然を感じて味わっているような要素もあり、そのあたり絶妙である。とにかくストーリーが強烈な映画なのでストーリーについてはあまり触れないが、見る価値は十分あると思う。また、他の2本にも共通するが、モノクロ映像が非常に素晴らしい。アンセル・アダムスやアルフレッド・スティーグリッツの写真を思わせるようなもので、映像の芸術性は高い。
 なおこのDVD、限定3000枚の発売だったそうで、今は入手が難しくなっているようだ。また「ふくろうの河」は、以前アメリカのテレビ番組『ミステリーゾーン』でも放送されたということである(DVDのパッケージの情報より)。
カンヌ国際映画祭グランプリ(短編)
アカデミー賞短編実写賞受賞
★★★★
by chikurinken | 2011-05-19 10:13 | 映画
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