反骨の砦(1964年・日本テレビ)
日本テレビ・ノンフィクション劇場
監督:大島渚、吉田実
語り手:徳川夢声
1960年代に筑後川水系の津江川流域でダム反対運動が起こった。反対派リーダーの室原知幸は、ダム建設予定地に「蜂の巣城」と呼ばれる砦を築きここを拠点にして、ダム反対運動を展開した。世に言う「蜂の巣城紛争」がこれである。
この蜂の巣城紛争の事情は、松下竜一の傑作ノンフィクション
『砦に拠る』で詳細に紹介されている。このダム反対運動とその後の攻防戦の一部始終はこの本を読めばかなり詳しくわかるが、蜂の巣城の全容を一度映像で見てみたいものだと思っていた。『砦に拠る』によると、映画監督の大島渚が当時「蜂の巣城紛争」の模様をテレビ・ドキュメンタリーとして撮影していたという。そういうものがあるのなら是非……と思い続けて20年。ついに目の当たりにすることになった。なんとその映像が、
ナギの会という団体のホームページで公開されていたのだ。本当に便利な時代になったものだ。ということでありがたく拝見させていただいた。20年来の悲願が叶ったことになる。
この作品はさまざまな賞を受賞しているが、この紛争自体が非常に異色で、ニュース・バリューがあることを考えるとそれも頷ける。ただしこのドキュメンタリーについては、ちょっと作りが甘いような気がする。攻防戦の実況ニュース映像としてはよく撮れていたが、「蜂の巣城紛争」の説明が著しく欠けており、当時ならいざ知らず、今見ると何だかボヤーンとした印象が残る。また室原知幸氏の個性をもっと前面に出しても良かったのではないかと思う。そういう意味で、ドキュメンタリーとしては割合平凡であったが、もちろん記録映像としては高く評価できる。蜂の巣城の全体像や、その部分についてもしっかり映像で記録されていた。
テレビ記者会賞、民放祭優秀賞受賞
★★★参考:
竹林軒出張所『忘れられた皇軍(ドキュメンタリー)』ナギの会ホームページ「筑後川/蜂の巣城紛争と室原知幸氏」Wikipedia「下筌ダム」(蜂の巣城紛争の事情が記述されている)