浮世絵ミステリー 写楽 〜天才絵師の正体を追う〜(2011年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

今さら「写楽の正体」でもあるまい……と思う。
『写楽 ― 江戸人としての実像』
という本で、著者の中野三敏氏が、なぜ写楽の正体は誰それだとかいう珍妙な説がまことしやかに流されるかについて説得力のある説明を展開している。また、その「正体」が能楽師の阿波藩士斎藤十郎兵衛であることは明らかである(また従来もそれが定説だった)ことを論証しており、僕自身もそれで十分納得した。この本のせいか、さすがに最近ではそういった珍説の類は少なくなったようだが、今回のNHKスペシャルでまたまた「写楽の正体」が取り上げられるという話を聞き、「また正体?」という感じで少々あきれ気味だった。もっともふたを開けてみると、斎藤十郎兵衛説を裏付ける内容で、僕としてもまったく異存のないものではあった(随分もったいぶった展開だったが)。
この番組では、2008年にギリシャで「発見」された写楽の肉筆画を分析し、その筆遣いからこれまでの珍説で取り上げられた絵師(北斎や歌麿など)との違いを明かしている(このあたりがこの番組の目玉だったのではないかと思う)。また、写楽が1年弱で消えていった理由についても写楽の作品群から検証しており、説得力のある回答を導き出していた(要は大衆の求めとあまりに違っていたために売れなかったことが理由……ということらしい)。放送でこれだけはっきりと論を展開したんだから、これで「写楽の正体」論争にもとりあえずの決着が付くんではないかと思うがいかがだろう。
なお、この関連番組(たぶん構成しなおしたもの)がNHK-BSでも2日間に渡って放送される模様(5月11、12日午後9:00〜)。個人的にはこのNHKスペシャルで十分だと思っているが。
★★★☆
参考:
竹林軒出張所『和本のすすめ(本)』
竹林軒出張所『古文書入門 くずし字で「百人一首」を楽しむ(本)』