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竹林軒出張所

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『阿房列車1号』、『阿房列車2号』(本)

『阿房列車1号』、『阿房列車2号』(本)_b0189364_973111.jpg阿房列車1号
阿房列車2号
内田百間原作、一條裕子作画
小学館IKKI COMIX

 内田百間の紀行随筆『阿房列車』をマンガ化したもの。
 このマンガ・シリーズは『阿房列車1号』、『阿房列車2号』、『阿房列車3号』の3巻構成になっており、今回読んだのはそのうちの2冊である。ちなみに、『阿房列車1号』は内田百間の『阿房列車』の途中まで(「鹿児島阿房列車」まで)、『阿房列車2号』は『阿房列車』の残りと『第二阿房列車』の途中まで(「春光山陽特別阿房列車」まで)が収録されている。
 名作小説(随筆)のマンガ化といってもまったくバカにできず、原作の面白さを十二分に再現しており、むしろ間(ま)の面白さを絵で再構成するなど、原作を上回る要素もある。しかもマンガという形を取りながら、原作の文章は大部分そのまま収録されている。原作で使われている言葉(「ボイ」(給仕)や「コムパアト」など)もそのまま使われていて、雰囲気も踏襲されている。マンガのコマの中に文章がほとんどト書きのような形でズラズラと並べられていることもあり、読み始めた当初はマンガにする必然性があるのかとも思ったが、それも結局杞憂で、マンガとしての価値も十分である。本書はある意味、解題みたいなものかも知れないが、しかしそれでも作品として十分自立性を持っていると言える。
『阿房列車1号』、『阿房列車2号』(本)_b0189364_981272.jpg 内田百間の一連の著作は、僕が若い頃旺文社文庫で出版されたときに本好きの間で話題になっていた。僕もそのときに、百鬼園先生(内田百間)の数々の著作に触れ、『阿房列車』と『第二阿房列車』もそのときに読んだ。つまり原作を先に読んでいるので、ま、そういう場合はマンガ化などされたら大抵は不快に感じたりしてネガティブな印象しか持たないものだが、本作については別だ。そういう意味でも非常に優れた作と言うことができる。ちなみに旺文社文庫では、物語の中に登場する「ヒマラヤ山系」(平山三郎氏)による解説文が巻末に収録されていて、『阿房列車』に登場するさまざまな人物の正体を明かしている。『阿房列車』では、登場人物(どれも実在する人物)について、本名をもじったり洒落を使ったり(甘木君、何樫君など)して独特の呼称で呼んでいるが、元々何という人なのかが非常に気になるのである。もっとも正体を明かされてもまったく知らない人(ほとんどは百間の元教え子で、その当時すでに高い地位に就いていた人が多い)なので、実際にはなんてことないんだがそれでも気になる。だからこういう配慮は非常に親切であった。もっともこれは旺文社文庫版の話。その点、このマンガ版は割合素っ気ない(「解説」などもない)が、そのあたり百鬼園先生に通じるところもあり、それはそれで良いのかなと思う。
 一條裕子の作画は、丁寧で美しく、どことなくユーモアが漂っていて、非常にグレードが高い。百鬼園入門としても恰好の書と言える。
★★★☆
by chikurinken | 2011-05-04 09:09 |
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