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竹林軒出張所

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『聖の青春』(本)

b0189364_10322067.jpg聖の青春
大崎善生著
講談社青い鳥文庫

 29歳で逝去した伝説の将棋棋士、村山聖の生涯を紹介したノンフィクション。
 村山聖は、いわゆる羽生世代と呼ばれる棋士の1人で、羽生善治現名人と互角の成績を残し、竜王戦1組、順位戦A級(それぞれ棋士の中で最高ランク)を経験しながらも、A級在籍のまま膀胱癌で死去した。生きていれば現在第一線の棋士であったことは間違いないが、幼少時から難病のネフローゼ(腎臓疾患)を患い、生き続けるのがやっとという生活が永らく続く。ネフローゼで苦しんでいた幼少時、将棋の名人を目指すことを決意し、闘病を続けながらもついにプロの棋士となった。途中、入院による不戦敗を重ねながらも、すばらしい成績を残していく。「終盤は村山に聞け」と言われるほどの終盤力を持ち、序盤/中盤力も徐々に身につけていって、順位戦A級という棋士のトップ・レベルに到達する。名人への挑戦権を獲得できる地位まで上り詰めたものの、膀胱癌を発病し、やがて29歳の若さで逝去する。
 村山が奨励会(プロ棋士への登竜門)の受験を決めたときに、村山が弟子入りしたのが森信雄(現七段)である。現在森信雄というと、数々の優れた弟子を持つ名門を築いているが、当時はまだプロ棋士になったばかりで、村山が最初の弟子であった。森自身が村山に大きな興味を持ったこともあって、病気の村山を気遣いながら、村山のために遣いや洗濯までやるという少し変わった師弟関係が始まる。この師弟関係がこの本の軸であり、そこにこそ、村山の充実した青春時代がある。村山は、この師弟関係を中心に、それまで病気のために閉ざされてきた「普通の生活」の愉しみを見出し、森の自由主義的な影響を受けながら、プロ棋士への道をばく進する。奨励会の過酷な競争に押しつぶされそうになりながらも、異例の早さで奨励会を通過し、やがてプロ棋士になる。
 村山と森の不思議な師弟関係は、村山がプロ棋士になった後も、ときには同居しときには(師匠が弟子の)生活の世話をしながらといった奇妙な形で続いた。病気がちの村山が、充実した生活をもっとも楽しんでいた時期である。この本を書いた大崎善生は、当時日本将棋連盟の雑誌編集部に在籍していて森信雄と親しかったこともあり、この村山と森の師弟関係を間近で見ていた。そういう意味で、村山と森の関係を書くのに、この人ほど適任の人はいないと言える。そのためもあって、本書の描写は臨場感があり、村山や森の心情も実に巧みに表現されている。村山が、勝負の世界で苦しみながらも、森との関係を軸にして充実した青春時代を謳歌していたことが、読むわれわれにも十分伝わってくる。そうして、短い生涯を駆け抜けていった村山の生き様が、決して本人にとって悔恨の念を起こすようなものではなく、生をまっとうしたという力強さを伴って迫ってくるのである。一人の人間の青春記で、読後は非常にさわやかであった。
第13回新潮学芸賞受賞
★★★★

追記:
 本書は、他に単行本版、講談社文庫版もあるが、僕が読んだのは児童向けの文庫で、すべての漢字にルビがふられていた。
 またこの『聖の青春』は2001年にドラマ化されており、他に『聖―天才・羽生が恐れた男』というマンガもあるらしい。

参考:
竹林軒出張所『聖 ― 天才・羽生が恐れた男 (1)〜(7)(本)』
竹林軒出張所『ヒカルの碁(1)〜(23)(本)』
竹林軒出張所『藤井聡太 14才(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『勝負 名人への遠い道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『将棋の解説者』
竹林軒出張所『将棋中継の聞き手』
竹林軒出張所『シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代(本)』
竹林軒出張所『運命の一手 渡辺竜王 VS 人工知能・ボナンザ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2011-04-12 10:33 |
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