濹東綺譚(1992年・東宝、ATG)
監督:新藤兼人
原作:永井荷風
脚本:新藤兼人
出演:津川雅彦、墨田ユキ、乙羽信子、宮崎淑子、八神康子、杉村春子
永井荷風の『濹東綺譚』を映画化したもの。『濹東綺譚』が私小説的な小説であるためか、この映画では荷風の『断腸亭日乗』の記述も随所に取り込まれ、永井荷風がモデルの物語という趣になっている。そのため『濹東綺譚』以降の荷風の生活も少しだけ描かれている。
何といっても出色なのは玉の井の風俗が巧みに描かれている点で(といってもホンマモンについてはよく知らないが)、湿っぽさや隠微さがよく伝わってきた。また、娼婦たちのぬくもりみたいなものも表現されており、荷風の世界の映像化としてはこれ以上ないくらいよくできているんではないかと思った。ただし、僕は荷風の原作は一切読んだことがなく、あまり興味を持っている作家でもないので、このあたりちょっといい加減な感想かも知れない。
タイトルバックに木村荘八の絵が使われており、これもなかなか凝っている。原作の出版時に使われたのが木村荘八の挿絵で「この作品の評価を高めた一因、という意見が多い」(Wikipediaより)らしい。
キャスティングも巧みで、井川比佐志(菊池寛役、ちょっと似ている)、宮崎淑子、河原崎長一郎、河原崎次郎、原田大二郎など、ちょっと名のある役者がチョイ役で出ていたのも面白い。さらに、監督の脚本家仲間(?)の石堂淑朗や下飯坂菊馬もスケベ親父の役で少しだけ出演している。あちこちにくすぐり的な要素が配置されていてなかなか楽しめる。
お雪役の墨田ユキは、この映画でいろいろな新人賞を取ったというが、正直セリフは棒読みでうまいとは言えない。ただし存在感は抜群で、なかなかの熱演であった。墨田ユキとしてデビューする前に出演したAVは、やる気も何も感じられないような代物だったが、本作の濡れ場は色っぽく非常に良い味を出していた。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『北斎漫画(映画)』竹林軒出張所『裸の十九才(映画)』竹林軒出張所『竹山ひとり旅(映画)』竹林軒出張所『映画女優(映画)』