デジタル・リマスターでよみがえる名作
「東京物語」復活への情熱
「地獄門」世界がみとめた色
(2011年・NHK)
NHK-BShi
小津安二郎監督の映画『東京物語』と衣笠貞之助監督の映画『地獄門』のデジタル・リマスターの過程を紹介する2本のドキュメンタリー。

『東京物語』では、極力きれいなフィルムを探してきて、それをデジタル・スキャンするところから作業が始まる。その後、画像のノイズ、音声のノイズ、画像のブレ(当時の機材のせいか映写環境のせいかわからないが、コマごとに少しずつ揺れがある)を修正して、最終的に明るさを調整する。このプロジェクトの監修を担当したのが、『東京物語』で撮影助手に付いていて小津監督に可愛がられた川又昂で、特に明るさの調整で小津監督の意をくんで調整を指示するなど、恰好の人選であったと思わせる。イマジカが行ったこのデジタル・リマスター作業であるが、文化財の修復を思い出させるような丁寧な作業で、とはいうものの、ある意味こちらも文化財の修復と言えるのではあるが。
それぞれの過程において、修正前と修正後の比較映像が示され、非常にわかりやすかったことも、この番組で特筆される部分である。私見では、画像のブレがなくなったことが、映像品質の向上にもっとも大きく貢献しているのだが、そういったことは知らなければそのままになる。ともかく、このデジタル・リマスターで『東京物語』は、リフレッシュされた(「リフレッシュ」という言葉がホントにピッタリ来る)。そのことはよくわかるのである。

一方『地獄門』の方は、特にその色彩が海外で高く評価されたこともあり(カンヌ映画祭グランプリ、アカデミー賞衣装デザイン賞獲得)、色彩の再現がデジタル・リマスターの大きなテーマになった。しかも『地獄門』は、赤・青・黄の三色に分割されたフィルムがそれぞれ残されており、どれほど色彩に気が遣われていたかがわかろうというもの。
この三色原版を使用して復元するのだが、これも『東京物語』と同様、画面ノイズ、音声ノイズなどを除去していくことが重要な作業になる。もちろん色彩に最重点が置かれているのはあらためて言うまでもない。色彩は、製作時、画家の和田三造(『南風』で有名)が担当したという話で、和田三造は当時、伝統色の研究に没頭していたようで、この映画の色彩に対しても相当な凝りようであったらしい。その和田三造の傾倒が伝わってくるほどに、デジタル・リマスターでリフレッシュされた画像は色彩がすばらしく、セットの豪華さや衣装デザインの美しさが再現されている。こちらも『東京物語』同様、イマジカの「良い仕事」ぶりが見られる。この二本のデジタル・リマスター版をぜひ通しで見てみたいと思った。ちなみに、二本ともNHK-BSで近いうちに放送されるらしい。ということはこの番組、一種の番宣だったのか……。
★★★★参考:
竹林軒出張所『地獄門 デジタル・リマスター版(映画)』竹林軒出張所『デジタル・リマスターでよみがえった「東京物語」』竹林軒出張所『色づくQ』