ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『江口寿史の爆発ディナーショー』(本)

江口寿史の爆発ディナーショー
江口寿史著
双葉文庫

『江口寿史の爆発ディナーショー』(本)_b0189364_18212390.jpg 江口寿史というマンガ家、名前以外まったく知らなかったんだが、数年前丸善で江口寿史研究のムック本みたいなのを立ち読みして、絵のうまさに驚いたことがある。そのとき、マンガ家は絵がうまいんだとあらためて気付かされた。ちなみにこのムック本、中年サラリーマンがある朝突然女子高生になってしまうというカフカばりのマンガが収録されていたが、これもセンスが光る面白いマンガであった(とてもバカバカしい話だが)。
 そういういきさつがあって、このたび江口寿史のマンガを初めて(実質は先ほどのムック本が最初だが)読むことになった。
 1986年から89年までWeekly漫画アクションに掲載された超短編を集めたもので、多種多様、玉石混淆、荒唐無稽、波瀾万丈、業界騒然という印象である(なんのこっちゃ)。『巨人の星』やゴルゴ13のパロディ、少女漫画のパロディ(くらもちふさこ風か? よく知らないが)まであって、絵は本家と見間違うほどうまく、その描画力とセンスに目を瞠る。また笑いの感覚も鋭く、ウィットを感じさせる。もちろん、江口流の可愛い女の子が登場するものもある。
 ただし一方で山上たつひこ風の下劣なものもわりに多く、こちらはちょっと閉口である(僕の個人的な好みで)。とは言うものの、なんでも江口氏、山上たつひこの影響を受けているということで、それはそれで納得が行くのである。そういう点で考えると、この本には、80年代の江口寿史の集大成的な意味合いもあるのではないかと考えられる。
『江口寿史の爆発ディナーショー』(本)_b0189364_1822843.jpg 本書でもっとも秀逸だったのは「わたせの国のねじ式」(Menu: 6)という作品で、つげ義春の『ねじ式』に出てくるあの主人公が、わたせせいぞうのオシャレな世界をさまよい歩くというもの。『ねじ式』風に話が進行して『ねじ式』のセリフも随所に出て来るんだが、背景や登場人物はあくまでわたせせいぞうの世界で、しかも絵と文字は完全にわたせマンガなのである。結果的にわたせせいぞうのマンガに見られる「こぎれいな違和感」があぶり出されることになっていて面白い(その辺が作者の狙いかどうかはわからないが。あ、それからワタシ、こんなこと書いてますが、わたせせいぞうの世界わりと好きなんです)。
 ついでと言っては何だが、『江口寿史の世界』という画集も2冊、図書館で借りてきた。江口寿史は、当初少年ジャンプでマンガを連載していたが、その後イラストの方向に向かった(マンガもちょくちょく描いているらしい)という話で、この画集と『爆発ディナーショー』で江口寿史作品を俯瞰できたんではないかと思っている(が、どうでしょう)。
 ともかく「マンガ家はうまいんです」(←桜庭和志風)ということを、あらためて納得しました、ハイ。

★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ハートカクテル カラフル (6)〜(8)(アニメ)』

by chikurinken | 2011-03-09 18:22 |
<< 模写好きの弁 『戦火のかなた』(映画) >>