バイオリンの聖地クレモナへ
〜ストラディヴァリウスに魅せられた日本人たち〜
(2008年・BS-Japan)
BS-Japan
BS民放局お得意の(安直な)紀行番組だと思って気楽に見ていたが、意外にも(失礼!)内容のある充実した番組であった。
現存するヴァイオリンの中で最高峰の音色を出す楽器と言えばストラディヴァリウスが有名であるが、その製作者、アントニオ・ストラディヴァリがイタリアのクレモナ出身であることもあって、クレモナには今でも数多くのヴァイオリン工房がある。
この番組の「旅人」の川久保賜紀は、2002年のチャイコフスキー・コンクールで最高賞(一位なしの二位)を受賞したヴァイオリニストであるが、10年間ストラディヴァリウス(貸与されたもので、返還したため今はない)を使用していたことから、ストラディヴァリウスへの郷愁捨てがたく、ストラディヴァリウスを生み出したクレモナのヴァイオリン製作の現場を見たいという思いで同地を訪問する……そういった主旨の番組である。
クレモナでは、いくつかのヴァイオリン製作者の工房を訪ねるが、その中の一人に菊田浩という日本人製作者がいる。この人も実はチャイコフスキー・コンクールのヴァイオリン製作部門(そういうのがあったことすら知らなかったが)で第一位を獲得しているんだが、かつてはNHKの録音技師をやっていながら40歳にしてヴァイオリン製作者に転身したという異色の経歴を持つ人である。
この2人のチャイコフスキー・コンクール優勝者の出会いが非常に面白い。良い楽器を求めている演奏者と良い演奏を求めている製作者が、ヴァイオリンを仲介として出会うのである。製作者の側は、自分で(うまく)演奏できるわけでないため、一流の演奏者が弾いたときにどういう音が出るのかわからない部分があるらしい。菊田氏も同様で、それがために、自分で製作したヴァイオリンを川久保氏に演奏してもらい、川久保氏の意見を聞きながら、音を微調整するということを実際にやっていた。川久保氏の方も、普段は目にしないヴァイオリンの製作現場に興味津々で、若い製作者が作る現代楽器に興味深く接していた。互いを求めるクリエイター同士が出会いそこに生まれる芸術的空間というものがこの番組で表現されており、見ていて非常に気持ちが良い。最後に川久保氏が、菊田氏一人を前にして、氏製作のヴァイオリンをとあるホールで演奏するという場面があり(演奏曲目はバッハのシャコンヌ)、このシーンも非常に感動的であった。
★★★★参考:
『バイオリンの聖地クレモナへ』オフィシャル:サイト竹林軒出張所『ストラディバリに挑む(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『最高の木を求めて(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『もうひとつのショパンコンクール(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『パイプオルガン誕生(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『至高のバイオリン ストラディヴァリウスの謎(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ピアノマニア 調律師の“真剣勝負”(ドキュメンタリー)』