モーツァルト 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』
(2001年・チューリヒ歌劇場ライブ)
出演:ロドニー・ギルフリー(ドン・ジョヴァンニ)、ラースロー・ポルガール(レポレロ)、イザベル・レイ(ドンナ・アンナ)、チェチーリア・バルトリ(ドンナ・エルヴィラ)、リリアナ・ニキテアヌ(ツェルリーナ)他
ニコラス・アーノンクール指揮
チューリヒ歌劇場合唱団&管弦楽団
エルンスト・ラフェルスベルガー合唱指揮
ユルゲン・フリム演出

モーツァルト作曲、ダ・ポンテ脚本のオペラ『ドン・ジョヴァンニ』をDVDで見た。3時間に及ぶ大作で、見る方も大変だが、演じている方はもっと大変。僕としても、意を決して『ドン・ジョヴァンニ』に挑むという感じであった。昨日紹介した
『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』に触発されたことも大きい。『ドン・ジョヴァンニ』を見るのは初めてで、他の上演作と比較できないため、このアーノンクール版がどの程度のできなのかはよくわからない。そういうわけで、『ドン・ジョヴァンニ』というオペラを含めての、見た感想である。なおこのDVDに収録されているのは舞台のライブだが、オペラは(録画ものを含めて)ライブでなければならないというのは僕の持論である。オペラをドラマ化した「オペラ映画」というものもいろいろと出ているが、これはちょっといただけない。舞台でやるからこそ、歌いながらの会話も許容できるんであって(映像にリアリティを追求した)ドラマにしてしまうと不自然でしようがない。歌いながらの会話なんてのはリアリティからもっともかけ離れたところにある。そこにリアルな要素と組み合わせるのは悪い冗談でしかない……と僕は思う。そういうわけでライブ版というのは必須条件である。
ストーリーは、ドン・ジョヴァンニという好色なプレイボーイ貴族(1800人の女性と関係を持っているという)が、ある女性を暴行しようとして、父親に見つかり、その父親を刺し殺してしまうところから始まる。このあたり、『四谷怪談』や『忠臣蔵』などの歌舞伎を彷彿とさせる。古今東西、同じような発想をするのだろうか。それでも懲りないドン・ジョヴァンニは、次々に手当たり次第女に迫り、いろいろな人間の恨みを買いながら、遍歴を続けていく。とにかく他人がどう思おうとかまやしない。自分の性欲を満たすためには何にでも手を染めるという感じで、そのせいもあって命を狙われたりもするが、最終的には、最初に刺し殺した父親の亡霊に地獄に突き落とされることになる。プレイボーイ伝説のドン・ジョヴァンニ(イタリア語、フランスではドン・ジュアン、スペインではドン・ファン)を題材にしたオペラで、当時このドン・ジョヴァンニ伝説の劇化がよく行われていたらしく、その中の1編ということになる。
DVD2枚で提供されたこの『ドン・ジョヴァンニ』であるが、印象的だったのがギルフリー演じるドン・ジョヴァンニとポルガール演じる従者のレポレロである。ギルフリーのジョヴァンニは、いかにも利己主義の好色漢という感じで、従者のレポレロもジョヴァンニに振り回される気の良い男を好演している。バルトリが演じるドンナ・エルヴィラは、やり過ぎな感じがあり、僕にはちょっと受け付けられない。DVDのパッケージによると「バルトリは強烈な存在感を放ち、激情とすばらしい歌を披露」しているということになっていて、これがこのDVDのウリになっているようではあるが。舞台では半裸の美女が出たり、楽器演奏者(楽団のメンバー?)が舞台上で演奏したりでなかなか演出に凝っていた。回り舞台を多用し、現代風の書き割りを使っていたのも新鮮であった。
音楽面では、序曲といくつかのアリアを知っている程度だったため、音楽的にあまり感じるところはなかった(アーノンクールの演奏は良かったと思うが)。もちろんモーツァルトの歌曲はいろいろな楽器が絡んで楽しいのだが、それでも3時間続くと食傷気味である。やはり僕にとって、イタリア・オペラは教養でしかなく、心底楽しむというようなものではないのだな……と感じた3時間であった。
参考:
竹林軒出張所『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯(本)』竹林軒出張所『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い(映画)』竹林軒出張所『喜歌劇「メリー・ウィドウ」(放送)』竹林軒出張所『歌劇「フィデリオ」(DVD)』竹林軒出張所『歌劇「椿姫」(DVD)』