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竹林軒出張所

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『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』(本)

モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯
田之倉稔著
平凡社

『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』(本)_b0189364_10312115.jpg ロレンツォ・ダ・ポンテの波瀾万丈な生涯が面白いということで、今一部で話題になっている本。
 ロレンツォ・ダ・ポンテとは、18〜19世紀のヨーロッパで、オペラの台本作家として活動した詩人で、モーツァルトの『フィガロの結婚』や『ドン・ジョヴァンニ』の台本を書いたイタリア人である。
 イタリアのヴェネツィア近郊の小都市で生まれ、その後、ヴェネツィア、ドレスデン、ウィーン、ロンドン、フィラデルフィア、ニューヨークと転々とし、89歳で世を去る。確かに世界中のあちこちを漂泊しているが、だからといって本書の前評判で聞いたような「冒険譚のような波瀾万丈」の生涯とは言えない。むしろ、あまり才能はないが如才にたけた通俗作家が、居場所をなくしたり新天地を求めたりして流転しているといった印象で、冒険の要素はほとんどない。したがってそういう要素を求めて読むとガッカリする。僕などはそのクチである。ただし、ヨーロッパの音楽事情(特にオペラ周辺)や風俗が非常にわかりやすく描かれているため、一人の人間を中心として描いた風俗史として読めば価値が高い。また、文章も簡潔で読みやすいため、読むのも割に楽である。
 僕などは、モーツァルトの音楽はともかく、オペラの荒唐無稽な展開やでたらめなストーリーはあまり評価できないと思っているので、「モーツァルトのオペラ」の作者だと言われても、特別な感慨を抱かない。ましてや、今名前が残っているのもモーツァルトのオペラの作者としての位置付けであり、本書によると、モーツァルトの台本を書いたのも当時多数書いたオペラの台本の中の数本という扱いに過ぎないようだ。当時、頭抜けた流行作家だったわけでもなく、むしろ皇帝のコネみたいな感じで台本作家としてそこそこ売れていたという感じである。そういうわけでダ・ポンテに対する興味は最初から最後まで湧かなかった。だが「皇帝のコネ」などといった当時の社会システムが身近に感じられてよくわかり、そういう点で優れた本だったと思うのである。本書で展開されている18〜19世紀の音楽界は非常にリアリティがあり、モーツァルトを描いた映画『アマデウス』とは大分違うなという印象であった。そういう意味で、当時の状況を知りたいという人には恰好の書ではないかと思う。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い(映画)』
竹林軒出張所『モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」(DVD)』
by chikurinken | 2010-11-23 10:31 |
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