スリーパー 眠れる名画を探せ
イギリス美術界のシャーロック・ホームズ
(2004年・NHK)
NHK-BShi

2時間の番組だが、まったく飽きさせない。久々に見応えのあるドキュメンタリーを見た。
タイトルのスリーパーというのは、巨匠が描いた名画であるにもかかわらず、諸々の理由で日の当たらない場所に埋もれてしまった絵画のことを言う。こういうものを見つけ出してきて、洗浄、修復することで、原型に近い形に戻す。こういうことができると、たとえば200万円程度で手に入れた絵画に数十億円の値段がついたりするので、画商にとっては夢のような話だという。ただ実際にはそう言った掘り出し物はめったに見つかるわけではないようだ。ところが英国に、こういった眠った名品を(次々に)発見する名人の画商がいて、すでに200点以上の名品を探し出しているという。美術界のシャーロック・ホームズなどと呼ばれたりもしているらしい。
このドキュメンタリーでは、その画商、フィリップ・モウルド氏に密着取材し、これまで発見した3枚の名画を取り上げ、当時の状況を再現しながら、その方法や秘密、モウルド氏の人となりを掘り下げていく。実際にここで紹介されている方法は意外に正攻法で、オークションのカタログでそれらしい絵画を見つけたら、図書館や美術館などを利用し、あらゆる方法で精査していくというものである。オークションでは1週間前に画商向けに公開されるため、その場で念入りにチェックするのは言うまでもない。それだけ調査をしても、最終的な判断は実際に購入した後でないとできないということで、ある程度博打みたいな部分はあるようだ。モウルド氏の場合、自分の専門である肖像画以外手を出さず、しかも画家についても数人に限定しているということで、このあたりに彼が成功している理由があるのではないかと思う。
このドキュメンタリーで紹介されている3枚の絵は、モウルド氏が最初に掘り出した作品(
トーマス・ローレンスによるアンゲルスティーンの肖像のスケッチ)、氏の名前を高めることになった歴史的な作品(
アーサー皇太子の肖像 -- 今まで存在しないと思われていたもの、現在ナショナル・ポートレート・ギャラリー収蔵)、最新(2004年時点)のネット・オークションで購入した作品(
トーマス・ハドソンによるジェームス・スタンリーの肖像、現在英国の国会議事堂収蔵)で、どれも歴史的価値が高く、よくぞ掘り出したというようなものである。しかも背景が塗りつぶされていたり(アンゲルスティーン像)、パネルが継ぎ足された上で加筆されていたり(アーサー皇太子像)して、原型をとどめないくらい改変されており、氏の目の確かさをうかがわせる。
番組のテーマ、構成、展開の仕方、解説など、あらゆる点でレベルが高く、非常に面白いドキュメンタリーであった。ちなみにナレーションは、フリーになる前の当時NHKアナウンサー、宮本隆治である。
★★★★参考:
竹林軒出張所『偽りのガリレオ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『疑惑のカラヴァッジョ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『贋作師ベルトラッチ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ダビンチ 幻の肖像画(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ジュラシック・キャッシュ(ドキュメンタリー)』