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竹林軒出張所

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『100年インタビュー ロナルド・ドーア』(ドキュメンタリー)

100年インタビュー ロナルド・ドーア
(2010年・NHK)
NHK-BShi

『100年インタビュー ロナルド・ドーア』(ドキュメンタリー)_b0189364_9231582.jpg 第二次大戦中、英国で日本語を学び、戦後、日本で研究活動を続けた社会学者、ロナルド・ドーアの話を聞く1時間半の番組(すべて日本語)。
 現在85歳で、この収録のために来日したようだが、いまだに元気でかくしゃくとしており、その語り口は優しく魅力的である。多くの学者に見え隠れする傲慢さは微塵もない。正直1時間半のインタビュー番組ということで、飽きずに見ることができるかちょっと微妙ではあったが、内容が濃かったこともあり、意外に楽しめた。
 ドーア氏によると、戦後の日本社会に見られた「もちつもたれつ」という助け合いの精神は彼にとって非常に魅力的で、そういう相互扶助の精神が戦後の経済成長を支えていたという。ところが、中曽根政権の頃から、アメリカ的新自由主義への傾倒が進み、行政レベル、法律レベルで新自由主義システムが取り入れられ、これが小泉時代まで続いて、現在の壊滅的な状態を招いたというのが彼の主張である(今日本人は自信を失っているように見えるとドーア氏は言う)。当時(80年代)の僕の実感としても、日本的な経営システムがすべて悪でアメリカ的なものがすべて善みたいな風潮はあった、確かに。結局、日本的な美点もすべて取り払われ、株主と経営陣だけが儲かるシステムができあがったというわけだ。
 日本的な家族的家父長型経営システムはもちろん問題も多いが、トータルとしてみれば良い点も多く、発展を望むには割に適したシステムだと言える。もちろん家父長型社会で育った日本人の特質にも合っている。こういうものが一方通行的に米英的な核家族型自由経営システムに置き換わったことで、日本企業の重要な特質を失うことにもなっている。結局、米英企業と同じ形態に移行させた(他人の土俵に移った)だけで、日本企業の強みまで失うことになった。
 最近では、社会システム自体も米英型になっていて、先行きが非常に不安である(今の米国・英国の社会状況を見れば歴然)。ちなみに、米英型の核家族型社会システムは、かつては世界のスタンダードみたいに喧伝されて、日本もそれに合わせるべきだというような論調が支配的であったが、実際には世界の中でも非常に限定的で、極論すれば英国と米国にしか存在しないらしい。日本人の人の良さのせいで社会システムまで取り入れてしまったが、本当に取り返しがつかないところまで来ているような気がする。今こそ温故知新の精神で未来に対峙したいところだ。
 さて、ドーア氏だが、春闘のことを非常に良いシステムだと言っていて(賃上げの標準が決まり、それに従って各社の賃金上昇率が決まるため、無理がない上、労使関係にとっても良いという)、そのあたり僕にとって非常に新鮮であった。日本型の社会(経営)システムは、たとえ他国と異なっていたとしても、それ自体が問題なのではなくそれは1つの特質に過ぎないということを、ドーア氏の話であらためて思い知らされた。できることなら彼の主張が、もう40年早く日本で主流になっていれば、日本ももっと別の道を進んだのではないかと思われ、それが非常に悔やまれるのである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 倉本聰(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『100年インタビュー 半藤一利(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『夢追い漫画家60年 (100年インタビュー)(本)』

by chikurinken | 2010-11-05 22:22 | ドキュメンタリー
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