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竹林軒出張所

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もし頑固な中年オヤジが『マネドラ』を読んだら --『マネドラ』(本)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎夏海著
ダイヤモンド社

b0189364_9203633.jpg 今とっても売れているらしい、通称『マネドラ』。初めて見たのは本屋さんの平積みであった。少女マンガ風の装丁とタイトルのアンバランスさが面白く、思わず手に取ってみたら、中身は拙そうな小説だった。もちろんそのまま平積みに戻した。マンガだったらよかったのに……と思いながら。
 それでもこの本、結構話題になっていたらしく、あちこちで話を聞く。だからと言って買うのはちょっと……というわけで図書館に行く。と、なんと、200人以上の人々が予約を入れて待機状態になっていた。しようがないので僕も予約を入れた。それが数カ月前の話。その『マネドラ』がついに僕のところにまわってきた。
 さっそく読んでみた。タイトルが示すとおりの物語で、随所にドラッカーの『マネジメント』が引用される。ちなみにドラッカーの『マネジメント』という書について、僕はまったく知らなかった。何でも経営学の元祖のような本だということだ。実際に、本書で『マネジメント』に少し触れることができるが、学の書というよりもエッセイに近いような印象である。僕にとっては、宮大工の口伝なんかに結構近いイメージである。それに、本書で引用されている『マネジメント』は翻訳のせいで読みづらい。学問の書ではないのだから、もう少し平易な日本語を使ったらどうだと思う。
 閑話休題(それはさておき)。ストーリーは、高校野球の女子マネージャーが、ドラッカーの『マネジメント』を参考にしながら野球部の組織改革に乗り出して成功するという話で、それに涙と感動のスパイスを加えた、ありきたりのものである。一番の特徴は、「小説」風になっていながら、従来の「小説」とは根本的に違うことである。話の展開は語られるが、そこには個人レベルの情感がほとんどないため、ただ単に登場人物を動かすというようなものになっている。端的に言えば、梗概(あらすじ)に近い。人間は動いているが、高い位置からマクロ的に描いているため、登場人物に対して身近な感覚はほとんど湧かない。学術書などで、ある記述の例えとして何人かの人物を設定して説明するような箇所が出てくるが、あれを敷延した感じである。
 そういう風に考えると、この「小説」は、ドラッカーの『マネジメント』を説明するために作ったサンプルと考える方がつじつまが合う。したがってタイトルは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」にするよりも、「もしドラッカーの『マネジメント』を高校野球部の例に適用したら」にする方が、内容を正しく説明している。そのため、本書には、物語としての面白さはない、と断言しても良い。物語はミクロ的だから面白いのであって、梗概はしょせん梗概である。
 『マネジメント』入門書として読めば、そこそこ役に立つのではないかと思うが、小説を装いながらその実ただの実例集になっているわけで、小説を期待して本書を手に取る読者(おそらくほとんどがそうであろう)の期待に添っているとは思えないのだ。「顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である」(『マネジメント』)というドラッカーの主張を本書が満たしているとは到底考えることができない。著者は、本書が売れることを予見していたらしいが、この本を生み出すことがクリエイターとして本当に「真摯」(ドラッカーが経営者に不可欠なものとして強調している……らしい)な態度なのかどうか、問いたい気分になった。
 文章は非常に読みやすいが、同時に非常に拙い。エレガンスもへったくれもあったもんじゃない。サブプロットらしきものはあり、ストーリーとしてはそれなりにまとまっている。いっそのこと、装丁が物語るように「マンガ・ドラッカー入門」みたいなものにすれば、もう少し質が高くなり、正しい読者(顧客)のもとに届けることができたんじゃないかと思う。あ、ちなみに近々、アニメ化されるそうです。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『あっこと僕らが生きた夏(ドラマ)』

by chikurinken | 2010-10-29 09:26 |
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