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竹林軒出張所

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ホグウッドのモーツァルト

b0189364_12531640.jpg クラシック音楽を聴くようになって久しいが、モーツァルトの音楽は長い間、謎……というかよくわからない対象であった。何が良いのかさっぱり分からない。エライ人の中には、死ぬことで一番不幸なのはモーツァルトが聴けなくなることだ、などとスカしたことを言った人もいるが、その心境も理解できなかった。フーンという感じである。
 ただ、何度も聴いているうちに、(オペラを含め)歌曲や協奏曲には面白いものもあると感じるようになった。それでも交響曲については、左耳から右耳に流れ去るだけで何にも残る感じはなかったのである。
 そんな折に出会ったのが、クリストファー・ホグウッド指揮、エンシェント室内管弦楽団演奏のモーツァルトの交響曲第25番であった。ホグウッドが指揮するモーツァルトの交響曲は、当時非常に話題になっていたのでホグウッドの名前は知っていたが、苦手なモーツァルトであるだけに食指は動かなかった。そういう状況で、たまたま輸入盤セール(当時は国内盤が高かったのでもっぱら輸入盤で済ましていた)で見つけたので試しに買ってみた次第。
 ところが、早速持ち帰り実際に聴いてみて、はなはだ驚いたのだった。これまでのモーツァルトの印象を覆すと言ったらちょっとオーバーだが、まったりとただ流れるだけといったイメージとはまったく違う、先鋭なモーツァルトがそこにあった。贅肉をそぎ落としたような演奏なのである。
 このクリストファー・ホグウッドという人は、演奏家と同時に研究者としても有名なようで、いくつか著書も翻訳されている。エンシェント室内管弦楽団は、その彼が創設した古楽器オーケストラである。古楽器であるから、基本的に18世紀から19世紀前半頃の楽器を使っていて、先鋭な感じを受けたのもその辺に原因があったのかも知れない。現在のオーケストラの楽器というのは、実は当時から大分改良が重ねられており(大きな音、安定した音が出るように……など)、モーツァルトやベートーヴェンの頃とは、音色も随分違っている(らしい)。ホグウッド/エンシェント室内管の演奏というのは、モーツァルトやベートーヴェン当時の楽器を使用して、当時と同じ音色で演奏してみようという試みで、モーツァルトやベートーヴェンが楽曲の中で想定していた音を再現することが狙いである。したがって、現在演奏される音色よりはるかに当時に近く、それに加えて、音楽に対するホグウッドの研究成果も十分に盛り込まれているのではないかと思う。
 20世紀後半のモーツァルト演奏は、優雅な演奏が主流で、僕がなじめなかったのはそういう演奏である。ホグウッドの古楽器演奏が新鮮で、好ましいと思ったのも、その辺に理由があったのかもしれない(モーツァルト好きの知人は、ホグウッドのモーツァルトはスカスカしていると言ったが、言い得て妙だと思う。確かに、従来のモーツァルト演奏のような優雅さは欠けている)。
 さて、そのホグウッドによるモーツァルトの交響曲であるが、すべての交響曲とそれに準ずる楽曲(一部のセレナードなど)がすでに全集として録音されている。CD19枚セットの大層なボックスであるが、4万円近くするので普通だとなかなか手が出ない。ところが、AmazonHMVなどのネット通販ショップを調べてみると、輸入盤が1万円程度で売られていたりする。中には8千円のものまであった。8千円だと1枚あたり400円ということになる。食指がかなり動いたが、よくよく調べると、レンタルCDショップにこの全集が置かれていて、1枚100円でレンタルされていた。というわけで早速借りたのだった(とりあえず半分)。ホグウッドのモーツァルトの交響曲は、第25番以外にも何枚か持っていたのだが、あらためてまとめて聴くと、どれも水準が高く面白い演奏である。
 ホグウッドは、モーツァルト以外にも、ハイドンやベートーヴェンの交響曲全曲録音に取り組んでいる(ハイドンは未完と聞いたが真相は分からない)。ベートーヴェンの交響曲全集は随分前に買ったが、こちらはあまり良い印象を持っておらず数回しか聴いていない。むしろベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集の方が圧倒的に面白く、今でも僕の中のスタンダード演奏になっている。何といっても、各曲が作られた時期に合わせてピアノの種類(すべて古楽器)を変えているというのだから、徹底ぶりには恐れ入る。というのも、ベートーヴェンがピアノ協奏曲を作曲したこの時期、ピアノの改良が急速に進んでいたらしく、ベートーヴェンがそれぞれの曲で想定していた音色もその時代ごとに変わっていたはずという前提になっているのだな。いやはや、ホグウッドおそるべしである。
by chikurinken | 2010-10-27 12:58 | 音楽
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