フェルメール盗難事件〜解き明かされた名画の謎〜
(2001年・NHK)
NHK-BS2

フェルメールの絵画は、現在世界で30数点しか残されていない。そのため、希少性という点でも価値が高いが、そのうちの4点(のべ5回)が過去に盗難に遭っている。このドキュメンタリーでは、その盗難事件と、その事件に伴って明らかになったフェルメールの絵画の秘密について紹介していく。2001年に製作されたもので、先日NHKアーカイブスとして放送された。
盗難事件についてはいずれもまったく知らず、なかなか細かい部分まで踏み込んでいて興味深かったが、なんといってもフェルメールの技法についての解説が面白かった。
これまでフェルメールの遠近法の正確さについては、カメラ・オブスキュラ(カメラの原型みたいな装置)を使ったせいで可能だったと言われていたが、しかしこの番組で紹介されていた方法には説得力があった。
「手紙を読む女」が2回目に盗難された後に発見された事実なのだが、フェルメールの絵画のうち約半分に、中心付近にピンホールが空いているということがわかった。ピンホールは、遠近法の消失点に当たる位置にあり、ここにピンを刺して糸を結び、それを周囲に伸ばして、糸にチョークを付け(大工が油壺でやるように)はじくと、簡単に基準線を作ることができる。番組では、これを発見した研究家が実演していたが、フェルメールの絵の、遠近感を作り出している線とピッタリ一致していた。
また、地色に赤褐色系の絵の具を下塗りしていたという話も興味深い。この事実は図らずも、盗難時に絵が切り取られたせいで判明したらしい。長い目で見れば何が幸いするのか分からないものである。
ともかく取材やインタビューなどもしっかり行われており、間口も奥行きも非常に深い、優れたドキュメンタリーだった。
写真は、1990年にイザベラ・ガードナー美術館から盗まれて今なお所在が分かっていない、フェルメール作の『合奏』という作品。★★★☆参考:
竹林軒出張所『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え(本)』竹林軒出張所『消えたフェルメールを探して(映画)』竹林軒出張所『真珠の耳飾りの少女(映画)』竹林軒出張所『偽りのガリレオ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フェルメールに魅せられて(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『指名手配:バンクシー(ドキュメンタリー)』