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竹林軒出張所

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『39 刑法第三十九条』(映画)

39 刑法第三十九条(1999年・光和インターナショナル)
監督:森田芳光
原作:永井泰宇
脚本:大森寿美男
出演:鈴木京香、堤真一、岸部一徳、江守徹、杉浦直樹、吉田日出子、樹木希林

『39 刑法第三十九条』(映画)_b0189364_9241041.jpg タイトルの刑法第三十九条とは「心神喪失者を責任無能力として処罰せず、心神耗弱者を限定責任能力としてその刑を減軽すること」(Wikipediaより)を定めた法律で、凶悪犯罪の加害者が無罪になるなど、被害者の心情を逆なでにするような扱いが往々にして議論の的になるものである。この映画でもこの点をテーマに据え問題提起している。が、問題提起が主というよりも、むしろサスペンス・ドラマのモチーフという扱いで、問題提起はありきたりである。
 ただしドラマとしては秀逸で、森田芳光の才能がいかんなく発揮されている。森田芳光ほど、傑作と駄作を大量に生み出している映画監督はいないと思うが、ちゃんと作った映画と適当に作った映画がはっきりと分かれていて、「ちゃんと作った映画」については、意欲的なものが多く、演出も優れている。この映画も「ちゃんと作った映画」に入り、演出が凝りまくっている上、キャストもすごい。演出やカメラワークは意表を突くものが多いが、奇を衒うというものではなく、大きな効果を上げている。キャストはそれぞれ芸達者な人達をピックアップしており、隙がない。
 この映画は意表を突くストーリーが持ち味であるため、ストーリーについては触れないが、法廷での場面なども、一般的な映画やドラマみたいにさっそうとした弁護士や検察官が登場するわけではなく、弁護士や検察官もなんだかやる気がなさそうな感じで、とてもリアリティを感じた。実際の公判は見たことがないのでどちらが本物に近いかはわからないが、法廷シーンが異色であることは確かである。
 全体に堅牢な作りで、がっしりと構築されているという印象で、非常に濃密な映画であった。ただし、内容が少し複雑であるため、途中わけがわからなくなる箇所があったが、僕の場合、法廷ものを見ると大抵同じようなことになるので、これがこの映画の欠点なのかどうかはよくわからない。また、ストーリーも一部ご都合主義的なところがあったが、全体として見ればあまり無理がなく、展開をぶちこわしにするようなものではなかった。サスペンスものとして非常に優れた映画であると思う。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『森田芳光の映画、3本』
竹林軒出張所『武士の家計簿(映画)』
竹林軒出張所『阿修羅のごとく(映画)』
竹林軒出張所『断定する人』
by chikurinken | 2010-08-22 23:22 | 映画
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