ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『たんぽぽの日々』(本)

たんぽぽの日々
俵万智・著、市橋織江・写真
小学館

『たんぽぽの日々』(本)_b0189364_15575853.jpg 『サラダ記念日』の俵万智による、子どもについての歌集。俵万智は、ほとんど僕と同世代で、学生時代『サラダ記念日』を読んでその斬新さに驚愕した僕としては、「短歌の俵万智健在」がうれしいところでもある。本作も、『サラダ記念日』同様、質の高い歌集である。内容は、ほとんど自分の子どもに関する歌である。これまで、俵万智の結婚の話とか一切聞いたことがなかったので「え、俵万智、子どもいたの?」と意外に感じた次第。なんでも40歳のときシングルのまま出産したらしい。ひとりで子育てするのも大変だろうなあと思うが、フリーの著述業であれば仕事が育児の障害になることもあまりないだろうから、その点は一般的なシングルマザーよりも恵まれているかも知れない。
 しかし、恋の歌で有名なあの俵万智が育児の歌ばかり作るというのも、なかなか感慨深いものがある。なんだか昔の同級生の消息を知ったような感じである(もちろん面識はまったくないが)。内容は、見開きページに、短歌一首とそれにまつわるエッセイが掲載されており、それに写真が添えられている。短歌は相変わらず鋭く、共感できるものが多い。僕なんかは子どもがある程度大きくなったので、彼女の短歌に描き出されている幼い子どものあれやこれやに懐かしさを憶えた。詩や短歌はどの程度共感できるかという一種の「あるある」であって、共感できる程度でその優劣が決まるのではないかと思うが、そういう点でも極上と言える。相変わらず視点が鋭いなあ……とも思う。作家も、こうやって経験を広げていくことで、新しい世界が広がっていき、結果としてその作品の幅も広がることになる。ファンにとっては喜ばしいことである。続編にも期待。

   恋の歌を一途に編みし君が今 子想う喜び歌いおりけり

★★★☆

参考:
竹林軒出張所『生まれてバンザイ(本)』
竹林軒出張所『ちいさな言葉(本)』
竹林軒出張所『短歌をよむ(本)』

by chikurinken | 2010-07-28 15:59 |
<< 『シナリオ無頼』(本) 『猫楠』(本) >>