アグリビジネスの巨人「モンサント」の世界戦略 前編、後編
(2008年・仏 ARTE)
NHK-BS1

除草剤ラウンドアップで有名な多国籍企業、モンサントが、世界中で展開するアグリビジネスの正体を暴くドキュメンタリー。
元々化学製品メーカーであったモンサントは、現在、農薬や肥料だけでなく、自社の農薬に耐性を持つ遺伝子組み換え種子を販売しており、農薬と抱き合わせて売りさばくことで巨額の収益を上げている。遺伝子組み換え種子の安全性についてはすでにさまざまなところで語られており、ヨーロッパの多くの国や日本では輸入禁止にしている。一方でモンサント側は、安全性が証明されていると訴えているが、まずこの論拠が非常にいい加減であることをこのドキュメンタリーは訴える。要するに遺伝子組み換え種子はまったく安全とは言い難いということである。また、ラウンドアップにしても生分解性であることをモンサントは強調して販売しているが、これもまったくデタラメらしい。
モンサントと言えば、かつてはPCB生産によって世界中に公害をまき散らし、数多くの被害者を出している。現在ではラウンドアップなどの農薬や遺伝子組み換え種子で同様の被害を世界中にまき散らしているのだ。遺伝子組み換え種子は元々、次の世代を生み出さないということになっていて、そのために生産者はモンサントの種子を毎年買い続けなければならないんだが、実際には、在来種と自然交配して次世代を生み出している。しかも、新しく発芽したハイブリッド種は、異常な花や茎を生み出し、一見してギョッとするような代物になっている。かつて枯れ葉剤でベトナムに生殖異常を多数もたらしたモンサントは、今も遺伝子組み換え種子で同じことを行っているのだ。しかも、このような状況が目に見えない形で進行していて、在来種の生存が脅かされている。
さらに、モンサントの種子を購入する農業主に対しても、さまざまな手段で圧力をかけ、結果的に小規模農業が立ちゆかなくなる結果を生み出している。このドキュメンタリーの後編では、インドでモンサントの種子を購入した農家の惨状が紹介されている。
このドキュメンタリーでは、このように、モンサントの悪事がこれでもかという具合に暴き立てられている。モンサント側の反論なども一部紹介されているが、こうした事実を知った上でその反論を聞くと「まったく笑止」という印象を受ける。こういう企業がのさばり、しかもそれをアメリカが輸出の核として世界中に押しつけている状況を見ると、まったく嘆かわしい限り……そういうことを実感できるドキュメンタリーであった。
このように内容は非常に迫力があって面白かったが、番組の演出ということになると賞賛できない部分もある。たとえば、このドキュメンタリーのネタ元として、ジャーナリストがネット検索(主にGoogle)を使用するという映像が随所に出てきて、その検索結果をドキュメンタリーの中で実際に活用しているが、こういう演出はあまりに安っぽい。ネットでチャチャッと調べて作ったドキュメンタリーであるかのような印象すら与える。いっそのこと、こういう部分を排除して、問題点をオーソドックスに並べていく方がずっと良いのではないかと思った。とは言え、優れた告発ドキュメンタリーであることには違いない。こういうものが作られたのも、遺伝子組み換え食品に反対している農業国、フランスならではと言うこともできる。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『遺伝子組み換え戦争(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フード・インク(映画)』竹林軒出張所『タネの未来(本)』竹林軒出張所『農よ、自然に帰れ(ドキュメンタリー)』